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カズオ・イシグロ『夜想曲集』を読みました。

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今日、カズオ・イシグロの短編集『夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』(2009、土屋政雄訳)を読み終えました。以前、この作家の『日の名残り』(1989)を読み始めましたが、アンソニー・ホプキンス主演の映画(1993)を先に見てしまい、本の方は途中で投げ出してしまいました。今回、この短編集を読み、この作家が好きになったので、『日の名残り』も読んでみようと思います。
この短編集について、ブックカバー裏表紙の解説を引用します。
ベネチアのサンマルコ広場で演奏するギタリストが垣間見た、アメリカの大物シンガーとその妻の絆とは――ほろにがい出会いと別れを描いた「老歌手」をはじめ、だつがあがらないサックス奏者が一流ホテルの特別階でセレブリティと過ごした数夜を回想する「夜想曲」など、音楽をテーマにした五篇を収録。人生の夕暮れに直面して心揺らす人々の姿を、切なくユーモラスに描きだしたブッカー賞作家初の短篇集。

【収録作品】
老歌手
 トニー・ガードナーはかつてはビッグネームの歌手でしたが、それは過去の話。彼は妻のリンディと訪れたベネチアで共産圏出身のギタリスト(この物語の語り手)と知り合います。彼はこのギタリストを雇ってゴンドラから窓辺の妻に歌いかけるなどしますが、彼がギタリストに語った話は意外なものでした。彼は今回の旅行が終わったら妻と別れるとのこと。その理由が笑えます。マジ?って感じです。
 カムバックに成功した連中を見てみろ。とくに、わしと同世代ながらしぶとく生きのこっている連中を……。一人の例外もなく再婚している。二回、ときには三回もだ。全員、その腕に若い妻がぶら下がっている。わしとリンディでは物笑いの種だ。
降っても晴れても
 主人公は外国で英語教師をしている47歳のちょっと冴えない独身男。彼は久々にロンドンの友人夫婦宅を訪れますが、そこには不穏な空気が漂っていました。彼は夫から、離れ始めた妻の心を引き戻すために引き立て役になってくれと頼まれます。「いつものおまえでいてくれればいいんだ」なんてひどいことを言われながら。彼がちょっとした失敗を取り繕うとしてより大きな失敗をする場面が面白いし、彼が友人の妻と踊るラストシーンもいいです。ここで流れるサラ・ボーンの‘パリの四月(April in Paris)’が聴きたくなりました。
 ‘降っても晴れても(Come Rain or Come Shine)’は、ハロルド・アーレン作曲、ジョニー・マーサー作詞のポピュラーソング。1946年発表。この曲はレイ・チャールズの“Definitive Ray Charles”とエリック・クラプトン&B.B.キング“Riding with the King”で聴いたことがありましたが、サラ・ボーンのヴァージョンも聴いてみたいと思います。

モールバンヒルズ
 この作品の舞台はイギリスの片田舎モールバンヒルズ。主人公はミュージシャン志望の若者で、夏の間だけ姉夫婦が経営するカフェを手伝っています。そこへ、スイス人のミュージシャン夫婦が訪れます。
 姉夫婦のカフェは、「グレートモールバンの町の中や幹線道路沿いではなく、文字どおりモールバン丘陵群の一つに立っている。古いビクトリア朝風の一軒家で、西向きだから、天気がよければカフェテラスに出て、ヘレフォードシャーを一望しながらお茶とケーキが楽しめる。冬の間は休業するが、夏はいつも繁盛している。客は地元の人がほとんどだ。百ヤード下のウェストオブイングランド駐車場に車をとめ、サンダル履きに花柄のドレスという恰好で、息を切らしながら小道を上ってくる。ときには本格装備のトレッキンググループが地図を片手に通りかかり、立ち寄ることもある。」という。この説明を読むと、ストーリーはともかくとして、先にモールバンヒルズのことが知りたくなります。
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The Malvern Hills located in the English counties of Worcestershire and Herefordshire. The hills have been designated by the Countryside Agency as an Area of Outstanding Natural Beauty. The highest point is the Worcestershire Beacon at 425 metres (1,394 ft) above sea level. The range is a natural border between Worcestershire and Herefordshire.(Wikipediaより) 

夜想曲
 主人公は才能はあるのに売れないサックス奏者。彼は顔の整形手術をし、現在ビバリーヒルズの高級ホテルで静養中です。なぜ彼は整形手術をしたのか? なぜ彼は大物女優リンディと「夜の散歩」のドタバタを演じることになったのか?

チェリスト
 この作品については、巻末の解説「笑いと音楽と救い」(作家・中島京子)をそのまま引用します。「いい教育を受けた野心家の若いチェリスト、ティボールが、アドリア海に面したイタリアの小都市にやってくる。そして1人の女性チェリストに出会う。彼女は若者にレッスンを申し出る。男は弾き、女は批評する。奇妙な個人レッスンが繰り返される。女は音楽を聴いて語るけれど、けっして楽器を弾こうとはしない。そしてある日女は衝撃の告白をする――。ものすごく変な話だ。そしてこの一篇は、もっともカズオ・イシグロ的な不思議さに満ちている。」

カズオ・イシグロ
 1954年11月8日長崎生まれ。1960年、五歳のとき、海洋学者の父親の仕事の関係でイギリスに渡り、以降、日本とイギリスのふたつの文化を背景に育つ。その後英国籍を取得した。
 ケント大学で英文学を、イースト・アングリア大学大学院で創作を学ぶ。一時はミュージシャンを目指していたが、やがてソーシャルワーカーとして働きながら執筆活動を開始。1982年の長篇デビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年発表の『浮世の画家』でウィットブレッド賞を受賞した。1989年発表の第三長篇『日の名残り』では、イギリス文学の最高峰ブッカー賞に輝いている。
 その後、『充たされざる者』(1995)、『わたしたちが孤児だったころ』(2000)、『わたしを離さないで』(2005)を発表し、それぞれ高い評価を受けた。(ブックカバーより、一部改編)

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