昨夜、『現代俳句の鑑賞101』(01)を読み終えました。
以下、一読して気になった句を引用します。
以下、一読して気になった句を引用します。
◆五十嵐播水
さいはての番屋にありし夏炉かな
秋雨に出そびれゐしが意を決し
蝶の黄を淡しと思ふ石蕗の花
落葉みち一人遅れてゆくもよし
花言葉殘して草の枯れにけり
◆永田耕衣
老いてなお思い寝のあり薄桜
人寂し優し怖ろし春の暮
枯草の大孤独居士ここに居(お)る
◆平畑静塔
もう何もするなと死出の薔薇持たす
毛野にして霞める加波は偽筑波
陶枕やのこる命の夢まくら
◆鈴木真砂女
こほろぎや眼を見はれども闇は闇
新涼や尾にも塩ふる焼肴
死なうかと囁かれしは蛍の夜
如月や身を切る風に身を切らせ
◆細見綾子
そら豆はまことに青き味したり
ふだん着でふだんの心桃の花
古九谷の深むらさきも雁の頃
吾亦紅ぽつんぽつんと気ままなる
門を出て五十歩月に近づけり
◆能村登四
月明に我立つ他は箒草
◆下村梅子
炎天やただ行くといふ意志あるのみ
誇などそんなものなき朝寝かな
くちなしのまぬがれがたく黄ばみそむ
◆中村苑子
膝抱いて影と居るなり十三夜
◆後藤比奈夫
鬼灯の祭の色になつてゐし
齢にも艶といふもの寒椿
羅を着て祇王寺に用のあり
首長ききりんの上の春の空
◆森 澄雄
西国の畦曼珠沙華曼珠沙華
若狭には佛多くて蒸鰈
鳥帰るところどころに寺の塔
億年のなかの今生実南天
朧にて寝ることさへやなつかしき
◆安東次男
結局は雀が似合ふ藪椿
◆澤木欣一
町裏に白き瀬波や風の盆
◆石原八束
冷酒を吉野秀雄の墓にかける
黒猫がゐる高窓のからす瓜
枯野ゆく人は枯野を見ざりけり
目をすゑて涼しき別れかはしけり
苦しき日を忘れむための秋昼寝
◆草間時彦
お寺まで湖見えかくれ春の道
曼珠沙華咲いても咲いても地は暗し
◆深見けん二
とまりたる蝶のくらりと風を受け
青林檎旅情慰むべくもなく
離愁とは郭公が今鳴いてゐる
父の魂失せ芍薬の上に蟻
人はみななにかにはげみ初桜
雨かしら雪かしらなど桜餅
枯菊を焚きて焔に花の色
◆村越化石
ものの情知れと朝寒夜寒かな
ところ得ておのれを得たり蕗のたう
生きてゐることに合掌柏餅
◆鷲谷七菜子
野にて裂く封書一片曼珠沙華
ほとけ恋ひゐて臘梅の一二りん
風とほる道あらしめよ椿山
◆菖蒲あや
蚊帳渡る風の青さに目覚めけり
フランスパン袋はみ出し雲は夏
◆大橋敦子
水仙は密に挿しても孤なる花
生涯を風に随順して芒
◆田村奎三
柿取りの竿ののけぞる日和かな
◆加藤三七子
まなぶたは今萬華鏡日向ぼこ
ひらきつつぶつかりあふや花辛夷
瓜の馬たのしむごとくころがれる
◆池上樵人
砂丘の上一紺締めて冬の海
◆岡井省二
わが思ふはじまりいつも鳰くるよ
呟くに人が応へて土用なり
□(ながしめ)の夏の木賊となりにけり
赤蕪の土を拂へば高野かな
◆藤田湘子
愛されずして沖遠く泳ぐなり
筍や雨粒ひとつふたつ百
月明の一痕としてわが歩む
冬蝶の夢見むとゐる伽藍かな
あめんぼと雨とあめんぼと雨と
◆宇佐美魚目
東大寺湯屋の空ゆく落花かな
◆飴山 實
青竹に空ゆすらるゝ大暑かな
どの山のさくらの匂ひ桜餅
◆川崎展宏
うしろ手に一寸(ちょっと)紫式部の実
鮎の腸(わた)口をちひさく開けて食ふ
赤い根のところ南無妙菠薐草
福田甲子雄
稲刈つて鳥入れかはる甲斐の空
◆神崎 忠
空也忌と知らされて食ふかやく飯
十一面觀音なれば蟲の夜
吉野より電話の奥の蟬しぐれ
束にせむ思ひの丈や草の花
◆岡本 眸
喪主といふ妻の終の座秋袷
犇きて椿が椿落しけり
をみなにも着流しごころ夕永し
◆今井杏太郎
早咲きの赤い椿が咲きにけり
芋の葉の露が大きくなりにけり
ことごとく赤くて軒の唐辛子
◆青柳志解樹
蠟梅が咲くとろとろととろとろと
◆斎藤梅子
燈明に離れて坐る朧かな
遠山の本降りとなる桜鯛
◆廣瀬直人
雨音を野の音として夏座敷
◆大峯あきら
帰り來て吉野の雷に座りをり
人は死に竹は皮脱ぐまひるかな
◆宮津昭彦
夜の向日葵踊り果てたるごとく立つ
葱をよく買ふ妻のゐて我家なり
◆河原枇杷男
抱けば君のなかに菜の花灯りけり
菫摘む阿修羅の眉間おもひつつ
◆有馬朗人
草餅を燒く天平の色に燒く
失ひしものを探しに冬帽子
◆鷹羽狩行
落椿われならば急流へ落つ
紅梅や枝々は空奪ひあひ
村々のその寺々の秋の暮
ひとすぢの流るる汗も言葉なり
秋風や魚(うを)のかたちの骨のこり
◆稲畑汀子
今日何も彼もなにもかも春らしく
落椿とはとつぜんに華やげる
空といふ自由鶴舞ひやまざるは
海見えて風花光るものとなる
一枚の障子明りに伎芸天
◆平井照敏
うりなすびきびとうがんと病みにけり
「はる」といふことばの春がきてをりぬ
◆山上樹実雄
水に来て蜻蛉が翳となる日暮れ
じだらくにゐて秋風が見ゆるとは
葱抜くや人をはるかとおもひつつ
少年の老いたるわれか桃の花
残り生(よ)は忘らるるため龍の玉
◆吉田汀史
夜泳ぐ砂に女を残し置き
◆大井雅人
寒椿深く眠れば熱は去る
人偲ぶとは語ること夏木立
◆鍵和田秞子
未来図は直線多し早稲の花
夢殿の夢のつづきの松朧
曼珠沙華蕊のさきまで意志通す
硝子戸を人の過ぎゆく古雛
鶴啼くやわが身のこゑと思ふまで
少年の瞳して阿修羅のしぐれをる
◆岡田日郎
星光り雪嶺になほ夕日の斑
山の湯に首立てひとり十二月
◆上田五千石
万緑や死は一弾を以て足る
渡り鳥みるみるわれの小さくなり
山開きたる雲中にこころざす
初蝶を見し目に何も加へざる
寒椿いのち惜しむに歳足らず
うたた寝のうたた冷え得し送り盆
◆友岡子郷
死の十日あとの空より緋連雀
◆脇村禎徳
ふんだんに瓜を食ひたる夏の逝く
◆伊藤通明
なに色と問へば桜とこたへけり
あひみての後のさくらの色なりし
はづかしき男と女うめもどき
◆大串 章
青嶺あり青嶺をめざす道があり
◆大石悦子
十七となりぬ芽に出て黄水仙
◆大槻一郎
喝采の形に西瓜切られけり
雪舞うて新薬師寺の甍あり
しばらくは春の渚にゐて飽かず
◆黒田杏子
白葱のひかりの棒をいま刻む
◆茨木和生
オーバーの胸雪まみれ逢ひに行く
◆棚山波朗
泥鰌掘泥そのままに立ち去れり
夜鷹鳴きいつも何かに急かれゐる
人去りし後も身構へ菊人形
◆倉田紘文
惜春のわが道をわが歩幅にて
◆岡本高明
ぶつぶつと言うてをるやも蓮根掘
月光にひとかたまりの椿の葉
柚子のけて湯のまん中へ入りにけり
◆金子青銅
月浴びて湯冷のごとき金閣寺
◆渡辺純枝
逃げ水のあときれぎれに喪の家族
石蕗咲くと縁側は髪編むところ
◆西村和子
夜桜に歩きて誰も明日知らず
◆今井 聖
グロウヴを頭に乗せて蟬時雨
かのセーラー服二輛目の雪嶺側
◆大屋達治
泳ぎつつ夢を見むとてうらがへる
われもゐし妻の若き日桜貝
法華寺の里に玉苗余りけり
洛中の大寺にこそ永き日を
◆片山由美子
子のあらばつけたき名あり花石榴
くちびるをかすめてゆきし落花かな
蟋蟀の闇鈴虫の籠の闇
こころにも北窓のあり塞ぐべし
待つ人のゐる明るさの春灯
まだもののかたちに雪の積もりをり
◆小澤 實
貧乏に匂ひありけり立葵
京吉野けふ高遠の櫻人
◆中田 剛
瀧みちのかたき椿の花を踏む
あたらしき畳に実梅しづかなり
凩やみづうみけふも草のいろ
修学院村にやすらふ春霞
睡蓮のまばらにとほき月夜かな
めざめゐてあたり瓜の香のこりゐる
雨ながら雀のこゑや帚草
◆上野一孝
旅人のひとりの昼餉萩の花
萩の花歩いてものを考ふる
春霞菩薩は象に乗りたまひ
まづ東寺見えて卯の花腐しかな
龍の玉雌伏のいまとおもふべし
◆石田郷子
背泳ぎの空のだんだんおそろしく
大粒の涙のやうに木の実落つ
夕映のはげしき雛をかざりけり
剪定の枝踏んで海見ゆるなり
◆藺草慶子
伊那谷の雨大粒に螢籠
牛市や赤い椿が泥の上
花火見しきのふの石に坐りけり
するするとこの月明を蜘蛛上る
洛中や大き椿にゆきどまる
◆田中裕明
亀鳴くや男は無口なるべしと
おのづから人は向きあひ夜の長し
◆高田正子
くゝられて星のかたちやたうがらし
遠くまで遊びに来しよ葭の花
みづうみのむかうの寺の除夜の鐘
◆五島高資
おこられて今夜はにんにくのかたち
母の日や逆立ちをして崩れけり
次に来るかみなりを待つ腕まくら
全力で立つ空びんに薔薇の花
わたしでも狐でもなく踊るなり
大いなる迂回路と知る白椿
山藤が山藤を吐きつづけおり
◆長谷川櫂
いちじくの葉かげは青し昼寝覚
※昨年、句集『遊山』を読んだ上田五千石以外、知らない俳人ばかりでした。しかし、気になる句がたくさんあったので、今後は彼らの句集を手に入れて読んでみようと思います。