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『虚子五句集』(下)を読みました。

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◆六百五十句
 覆(おおい)とり互に見(まみ)ゆ寒牡丹
 我行けば枝一つ下り寒鴉
 草餅の重の風呂敷紺木綿
 金堂の扉を叩く木(こ)の芽風
 藤の雨漸(ようや)く上り薄暑かな

 河骨(こうほね)の花に添ひ浮くいもりかな
 鍬置いて薄暑の畦に膝を抱き
 早苗饗(さなぶり)のいつもの主婦の姉かぶり
 梅雨晴の夕茜(ゆうあかね)してすぐ消えし
 己れ刺(とげ)あること知りて花さうび

 取敢(とりあえ)ず世話女房の胡瓜もみ
 人の世も斯(か)く美しと虹の立つ
 慈雨到る絶えて久しき戸樋(とひ)奏で
 立秋や時なし大根また播(ま)かん
 一塊の雲ありいよゝ天高し

 山里の盆の月夜の明るさよ
 夜半(よわ)過ぎて障子の月の明るさよ
 秋風や静かに動く萩芒(すすき)
 秋時雨かくて寒さのまさり行く
 百丈の断崖を見ず野菊見る

 爽やかに衆僧読経の声起り
 秋雨や旅の一日(ひとひ)を傘借りて
 柿赤く旅情漸く濃ゆきかな
 瓶(へい)青し白玉椿挿(さし)はさむ
 わが懐(おも)ひ落葉の音も乱すなよ

 父恋ふる我を包みて露時雨
 渓谷の少し開けて稲架(はざ)ありぬ
 厚布団薄布団旅続けけり
 手伝ひの来しより漬菜(つけな)あわたゞし
 一つ啼き枝を踏み替へ寒鴉

 お茶うけの雛のあられに貝杓子(かいじゃくし
 身に入(し)みて身の上話花火の夜
 三味(しゃみ)置きて語る花火の宵なりし
 蟬取の網過ぎてゆく塀の外
 秋草をたゞ挿し賤(いや)しからざりし

 虹渡り来(く)と言ひし人虹は消え
 鬼灯(ほおずき)の赤らみもして主(あるじ)ぶり
 夕立や隣りの竿の干衣(ほしごろも)
 新米や百万石を一握り
 何事も野分(のわき)一過の心かな

 人々に更に紫菀(しおん)に名残あり
 椿艶(つばきえん)これに対して老ひとり
 夏の雲徐々に動くや大玻璃戸(おおはりど)
 二三日朝寝昼寝や旅がへり
 能衣装うちかけしごと庭紅葉

 旅にあることも忘れて朝寝かな
 紫蘭咲き満つ毎年の今日のこと
 万緑の万物の中大仏
 濃く淹れし緑茶を所望梅雨(つゆ)眠し
 日蔽(ひおおい)が出来て暗さと静かさと

 人生は陳腐なるかな走馬燈
 笹鳴(ささなき)が初音となりし頃のこと
 よき部屋の深き廂(ひさし)や萩の花
 朝寝もし炬燵寝もして松の内
 一点の黄色は目白赤椿

 春雨の音滋(しげ)き中今我あり
 葉ごもりに引つかゝりつゝ椿落つ
 林なす潮の岬の崖椿(がけつばき)
 年を経て再び那智の滝に来し
 春惜む命惜むに異らず

 蝸牛(ででむし)の移り行く間の一仕事
 緑に腰して夏山に対しけり
 待ちたりし赤朝顔の今朝咲きし
 鎌倉や牡丹(ぼうたん)の根に蟹遊ぶ
 御仏(みほとけ)と相合傘の時雨かな

 彼一語我一語秋深みかも
 干鯊(ほしはぜ)を食積(くいつみ)の昆布巻(こぶまき)にせん
 其他の事皆目知らず老の春
 蓄へは軒下にある炭二俵
 熱燗に泣きをる上戸(じょうご)ほつておけ

 おでんやの娘愚かに美しき


◆七百五十句
 ゆらぎ見ゆ百の椿が三百に
 いぬふぐり空を仰げば雲も無し
 落椿土に達するとき赤し
 諸事は措(お)き牡丹に心うつしけり
 新緑の瑞泉寺とやいざ行かん

 梅雨晴間(つゆはれま)絶えて久しき友来(きた)る
 温泉(ゆ)に入りて唯何となく日永(ひなが)かな
 朝寝して今朝が最も幸福な
 秋風の伊丹古町今通る
 千鳥飛べば我あるものと思ふべし

 無駄な日と思ふ日もあり冬籠
 短夜(みじかよ)や夢も現(うつつ)も同じこと
 郭公も唯の鳥ぞと聞き馴れし
 世に四五歩常に遅れて老の春
 とはいへど涙もろしや老の春

 傲岸と人見るまゝに老の春
 惜春の心もありて人を訪れ(と)ふ
 朝顔の二葉より又はじまりし
 端居(はしい)してげに長かりし旅路かな
 けふの月よからんと云ひ別れけり

 何もせで一日ありぬ爽やかに
 縁に腰そのまゝ日向ぼこりかな
 書き留めて即(すなわ)ち忘れ老の春
 歩み去る年を追ふかに庭散歩
 眠れねばいろいろの智慧夜半(よわ)の冬

 年老いし椿大樹の花の数
 窓外に椿ある故淋しからず
 天草の島山高し夏の海
 夏の蝶日かげ日なたと飛びにけり
 襟首を流るゝ汗や天瓜粉(てんかふん)

 わが庵(いお)の椿に鵯(ひよ)の来る日課
 真つ赤なる障子の隙の庭椿
 彼一語我一語新茶淹れながら
 蠅叩手に持ち我に大志なし
 不精にて年賀を略す他意あらず

 君が来し門椿咲きつゞきをり
 離々として鬱々として春の草
 朝顔を一輪挿に二輪かな
 咲き満ちてこれより椿汚なけれ
 夏蝶の高く上りぬ大仏(おおぼとけ)

 添水(そうず)鳴る故人を憶(おも)ひつゞけをり
 古(いにしえ)を恋ひ泣く老や屠蘇の酔(よい)
 梅あるが故に客も来鶲(ひたき)も来
 此椿花多かりし思ひ出で


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