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『漱石俳句集』を読みました。

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今日、坪内稔典編『漱石俳句集』(90)を読み終えました。この句集について、ブックカバーの解説文を引用します。
 漱石は親友子規の感化で俳句をつくり生涯におよそ2600句を残した。明治28~32年はとりわけ熱心に作句にはげんだ時期で、子規は、この頃の漱石の俳句を評して意匠が斬新で句法もまた自在だと言っている。全作品から848句を選び脚注を付した。

以下、一読して気になった句を引用します。

 雀来て障子にうごく花の影
 わが恋は闇夜に似たる月夜かな
 柿の葉や一つ一つに月の影
 通夜僧の経の絶間やきりぎりす
 何事ぞ手向(たむけ)し花に狂ふ蝶

 今日よりは誰に見立(みたて)ん秋の月
 鳴くならば満月になけほととぎす
 病む人の巨燵(こたつ)離れて雪見かな
 何となう死(しに)来た世の惜まるる
 弦音(つるおと)にほたりと落る椿かな

 菜の花の中に小川のうねりかな
 見上ぐれば城屹(きつ)として秋の空
 土筆(つくしんぼ)人なき舟の流れけり
 卯の花や盆に奉捨(ほうしや)をのせて出る
 罌粟(けし)の花さやうに散るは慮外なり
 
 凩(こがらし)や真赤になつて仁王尊
 達磨忌や達磨に似たる顔は誰
 芭蕉忌や茶の花折つて奉る
 本堂は十八間の寒さ哉
 初冬や竹切る山の鉈(なた)の音

 東西南北より吹雪哉
 埋火(うずみび)や南京茶碗塩煎餅(しおせんべ)
 口切(くちきり)や南天の実の赤き頃
 曼珠沙花(まんじゆしやげ)あつけらかんと道の端
 はらはらとせう事なしに萩の露

 行く年や膝と膝とをつき合せ
 御立ちやるか御立ちやれ新酒菊の花
 秋の雲ただむらむらと別れかな
 うかうかと我門過る月夜かな
 うつむいて膝にだきつく寒(さむさ)哉

 半鐘とならんで高き冬木哉
 雪霽(はれ)たり竹婆娑々々(ばさばさ)と跳返る
 花に暮れて由(よし)ある人にはぐれけり
 日は永し三十三間堂長し
 氷る戸を得たりや応と明け放し

 梅咲て奈良の朝こそ恋しけれ
 霞む日や巡礼親子二人なり
 つくばいに散る山茶花の氷りけり
 奈良の春十二神将剥げ尽せり
 護摩壇に金鈴響く春の雨

 陽炎(かげろう)に蟹の泡ふく干潟かな
 物言はで腹ふくれたる河豚(ふくと)かな
 海見えて行けども行けども菜畑哉
 登りたる凌雲閣の霞かな
 窓低し菜の花明り夕曇り

 吹井戸(ふきいど)やぼこりぼこりと真桑瓜
 紅白の蓮擂鉢(すりばち)に開きけり
 反橋(そりはし)の小さく見ゆる芙蓉哉
 ひやひやと雲が来る也温泉(ゆ)の二階
 月東(つきひがし)君は今頃寐てゐるか

 行秋(ゆくあき)を踏張てゐる仁王哉
 影法師月に並んで静かなり
 日あたりや熟柿(じゆくし)の如き心地あり
 落ちさまに蝱(あぶ)を伏せたる椿哉
 朧夜(おぼろよ)や顔に似合ぬ恋もあらん

 木瓜咲くや漱石拙(せつ)を守るべく
 菫ほどな小さき人に生れたし
 前垂の赤きに包む土筆かな
 菜の花の中へ大きな入日かな
 麦を刈るあとを頻(しき)りに燕かな

 落ちて来て露になるげな天の川
 冷やかな鐘をつきけり円覚寺
 仏性(ぶつしよう)は白き桔梗にこそあらめ
 旅にして申訳なく暮るる年
 兀(ごつ)として鳥居立ちけり冬木立

 神かけて祈る恋なし宇佐の春
 払へども払へどもわが袖の雪
 煩悩の朧(おぼろ)に似たる夜もありき
 灯(ひ)もつけず雨戸も引かず梅の花
 相逢ふて語らで過ぎぬ梅の下

 野菊一輪手帳の中に挟みけり
 路岐(みちわかれ)して何(いず)れか是(ぜ)なるわれもかう
 新しき畳に寐たり宵の春
 空狭き都に住むや神無月
 三階に独り寐に行く寒かな

 霧黄なる市(まち)に動くや影法師
 明月や杉に更(ふ)けたる東大寺
 釣鐘のうなるばかりに野分(のわき)かな
 飯蛸(いいだこ)の一かたまりや皿の藍
 南天に寸の重みや春の雪

 そそのかす女の眉や春浅し
 朝寒(あささむ)や自ら炊(かし)ぐ飯二合
 生きて仰ぐ空の高さよ赤蜻蛉
 一山や秋色々の竹の色
 力なや痩せたるわれに秋の粥

 裏座敷林に近き百舌の声
 風に聞け何れか先に散る木の葉
 迎火(むかえび)を焚いて誰待つ絽(ろ)の羽織
 腸(はらわた)に春滴(したた)るや粥の味
 冷かな足と思ひぬ病んでより

 蝶去つてまた蹲踞(うずくま)る小猫かな
 厳かに松明(まつ)振り行くや星月夜
 連翹(れんぎよう)の奥や碁を打つ石の音


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