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村上春樹『騎士団長殺し』を読みました。

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今日、村上春樹の長編小説『騎士団長殺し』(2017)を読み終えました。
以下、一読した感想等を書こうと思います。

◆ストーリー
 妻からの突然の別れ話に戸惑い、「私」は家を出ます。赤いプジョー205ハッチバックに乗り、東京→東北(日本海側)→北海道→東北(太平洋側)と、放浪の旅を続けることになります。やがて、私は友人の計らいで彼の父で有名な日本画家・雨田具彦の小田原の山の上のコテージに住むことになります。
 私はその家の屋根裏で雨田具彦の日本画『騎士団長殺し』を偶然発見します。そして、それが契機となり、私は不可思議な世界へと導かれていきます。

◆過去の作品との類似性
 この作品は、これまでの村上作品、たとえば『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(85)や『ダンス・ダンス・ダンス』(88)、『ねじまき鳥クロニクル』(94・95)、『1Q84』(09・10)などを彷彿とさせます。
 ある出来事を契機に主人公が現実世界から非現実的な世界へと導かれてゆくことや、登場人物の設定には多くの類似性があります。音楽や料理、酒、車、セックスなどの記述は作品にリアリティを与え、洞窟や井戸、石室(穴)を通過させることによって、私たち読者を非現実的な世界へと導いているのです。新しさは感じませんでしたが、逆に懐かしさを覚えつつ読むことができました。

◆オペラ『ドン・ジョバンニ』
 この作品は、モーツァルトのオペラ『ドン・ジョバンニ』が大きなモチーフになっています。雨田具彦の日本画『騎士団長殺し』は、かつて彼がウィーン留学中に連座したナチ高官暗殺未遂事件を、『ドン・ジョバンニ』の騎士団長殺しのシーンを借りて描いています。
 この作品中に登場する「イデア」や「メタファー」は、『騎士団長殺し』に描かれた〈騎士団長〉や〈顔なが〉の姿となって登場します。初めて〈騎士団長〉が登場した時、少しばかり怖さを感じましたが、やがてその不在や消滅に淋しさを感じるようになりました。けっこう愛すべきキャラクターだと思います。

◆飲酒運転について
 以前の村上作品では登場人物がしばしば飲酒運転をしていました。しかし、著者もそれが反社会的行為だということに気づいたのか、あるいはどこからか注意を受けたのか、この作品には飲酒運転を自ら戒めるシーンが4か所もありました。登場人物が飲酒運転をしたのは一度だけで、それについても言い訳をしています。
 免色は月の明かりの下で、艶やかな銀色のジャガーに乗り込んで帰って行った。開けた窓から私に軽く手を振り、私も手を振った。エンジン音が坂道の下に消えてしまった後で、彼がウィスキーをグラスに一杯飲んでいたことを思い出したが(二杯目は結局口をつけられていなかった)、顔色にまったく変化はなかったし、しゃべり方や態度も水を飲んだのと変わりなかった。アルコールに強い体質なのだろう。それに長い距離を運転するわけではない。もともと住民しか利用しない道路だし、こんな時刻には対向車も、歩いている人もまずいない。(第1部P231-232)

「ウィスキーをありがとう」と私は礼を言った。まだ五時前だったが、空はずいぶん暗くなっていた。日ごとに夜が長くなっていく季節だった。
本当は一緒に飲みたいところだが、なにしろ運転があるものでね」と彼は言った。「そのうちに二人でゆっくり腰を据えて飲もう」(第1部P340)

 雨田は白ワインのグラスを注文し、私はペリエ(引用者注:南仏産のスパークリング・ナチュラルミネラルウォーター。要するに、ただの炭酸水)を頼んだ。
これから運転して小田原まで帰らなくちゃならないからね」と私は言った。「ずいぶん遠い道のりだ」(第2部P89)

「おたくにウィスキーはありますか?」
「シングル・モルトが瓶に半分くらいあります」と私は言った。
「厚かましいお願いですが、それをいただけませんか? オンザロックで」
「もちろんいいですよ。ただ免色さんは車を運転してこられたし……」
タクシーを呼びます」と彼は言った。「私も飲酒運転で免許証を失いたくはありませんから」(第2部P137)

 私は彼にウィスキーを勧めようかと思ったが、思い直してやめた。今夜はたぶん素面(しらふ)でいた方がよさそうだ。これからまた車を運転することだってあるかもしれない。(第2部P253)

◆ブルース・スプリングスティーンの“ザ・リヴァー”について
 私はブルース・スプリングスティーンの『ザ・リヴァー』をターンテーブルに載せた。ソファに横になり、目を閉じてその音楽にしばし耳を澄ませていた。一枚目のレコードのA面を聞き終え、レコードを裏返してB面を聴いた。ブルース・スプリングスティーンの『ザ・リヴァー』はそういう風にして聴くべき音楽なのだと、私はあらためて思った。A面の「インディペンデンス・デイ」が終わったら両手でレコードを持ってひっくり返し、B面の冒頭に注意深く針を落とす。そして「ハングリー・ハート」が流れ出す。もしそういうことができないようなら、『ザ・リヴァー』というアルバムの価値はいったいどこにあるだろう? ごく個人的な意見を言わせてもらえるなら、それはCDで続けざまに聴くアルバムではない。『ラバー・ソウル』だって『ペット・サウンズ』だって同じことだ。優れた音楽を聴くには、聴くべき様式というものがある。聴くべき姿勢というものがある。
 いずれにせよ、そのアルバムにおけるEストリート・バンドの演奏はほとんど完璧だった。バンドが歌手を鼓舞し、歌手はバンドをインスパイアしていた。(第2部P428-429)

 “The River”は、ブルース・スプリングスティーンが1980年に発表した2枚組アルバムです。僕の大好きなアルバムだし、収録曲の‘Hungry Heart’はスプリングスティーンの数多い楽曲中でも大好きな曲の一つです。僕はこの作品をLPレコードで聴いたことがなかったので、「私」のように座り心地の良いソファーにすわってじっくり聴くのもいいかなと思いました。‘Independence Day’の余韻を感じながらレコードのB面をセットする。そして、‘Hungry Heart’に針を置く。
 でも、このアルバムは(僕がいつもしているように)車を運転しながら聴くのもいいと思います。このアルバムを聴いていると、1,000km先くらい平気で行けそうな気がします。

◆免色(めんしき)という登場人物。当初の予想に反してけっこうまともな人物でした。スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』に登場するジェイ・ギャツビーを思い起こさせます。

◆モーツァルトのオペラ“ドン・ジョヴァンニ”のDVDを購入しました。ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団/ヘルベルト・グラーフ演出による、1954年ザルツブルク音楽祭で上演された作品です。

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