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村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』を読みました。(再)

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 今日、村上春樹の長編第8作『ねじまき鳥クロニクル』(第1部「泥棒かささぎ編」・第2部「予言する鳥編」:1994、第3部「鳥刺し男編」:1995)を読み終えました。
 この作品を読むのは、94・95年97年08年に続いて4回目でした。前3回とは違った読み方が出来ればと、自分自身に期待しながら読み進めました。
 この作品の「あらすじ」について、Wikipediaから一部引用します。
 会社を辞めて日々家事を営む「僕」と、雑誌編集者として働く妻「クミコ」の結婚生活は、それなりに平穏に過ぎていた。しかし、飼っていた猫の失跡をきっかけにバランスが少しずつ狂い始め、ある日クミコは僕に何も言わずに姿を消してしまう。僕は奇妙な人々との邂逅を経ながら、やがてクミコの失踪の裏に、彼女の兄「綿谷ノボル」の存在があることを突き止めていく。
 1984年6月から1986年の冬が主な舞台。作品を通して「水」のイメージで書かれている。

【主な登場人物】
・僕(岡田亨)
・クミコ
・笠原メイ
・加納マルタ
・加納クレタ(加納節子)
・綿谷ノボル(綿谷昇)
・本田伍長(本田大石)
・間宮中尉(間宮徳太郎)
・赤坂ナツメグ
・赤坂シナモン
・牛河
・電話の女
・猫(ワタヤ・ノボル → サワラ)

【感想等】
第1部 泥棒かささぎ編(1984年6月~7月)
 飼い猫が失踪したことをきっかけに(あるいはそれとの関係は不明ですが)、幾人かの人が「僕」のもとにやって来て、それぞれの話を聞かせます。
 電話をかけてきた「謎の女」、加納マルタとクレタの姉妹、笠原メイ、そして間宮中尉。加納クレタは彼女の痛みにまつわる話、笠原メイはかつら業界の話、そして間宮中尉は昭和13年(1938)のハルハ河左岸(モンゴル人民共和国領土)でのある出来事について語ります。間宮中尉が語る山本の死に関する記述はおぞましく、読むたびに不快になります。
 第1部における「僕」は、主に聞き手としての役割を与えられています。

第2部 予言する鳥編(1984年7月~10月)
 妻のクミコが失踪し、「僕」は彼女に恋人がいたことを知ります。そんな時、「僕」に間宮中尉からの長い手紙が届きます。そこには、昭和13年(1938)に彼が経験したモンゴルの砂漠の中の深い涸れ井戸に落とされた時のことが綴られていました。
 「僕」はクミコとの関係がいったいどこで損なわれてしまったのか、考えるために近所の空き家の涸れ井戸に入ります。
 加納クレタは「良いニュースは小さな声で語られるのです」と言ってギリシャへ旅立ちます。そして、笠原メイはあの空き家が取り壊され、井戸も埋められたことを教え、新たな旅立ちのために別れを告げます。
 この巻の最後、「僕」は「謎の女」がクミコだったことに気づきます。クミコは「僕」に救いを求めてメッセージを送り続けていたのです。第3部は「僕」がクミコを取り戻す行動が描かれるでしょう。

第3部 鳥刺し男編
 第3部は大まかに言うと、「僕」が妻クミコを救い出すために涸れ井戸の底に降りる物語と、笠原メイが地方の工場の寮に入り自らを再生させる物語からなっています。
 「僕」の物語には、赤坂ナツメグ・シナモン親子や牛河といったとても特異な人物が登場します。そして、ナツメグ親子が語る1945年8月の新京の動物園での出来事や、間宮中尉がシベリアの炭鉱で再会した皮剥ぎボリスの話が語られます。
 クミコは、姉と自分は兄の綿谷ノボルによって汚されたと言います。それは肉体的に汚されたのではなく、それ以上に汚されたのだと。綿谷ノボルが持つ闇の部分がクミコ失踪と大きく関わっていることは理解できましたが、その闇の部分が何なのか、最後までわかりませんでした。

◆妻の失踪という、ある意味日常的な出来事が中心の物語ですが、そこに加納マルタ・クレタ姉妹や赤坂ナツメグ・シナモン親子、電話の女、本田さん、牛河のような特異な人物が関係することで物語を複雑にしています。
 さらに、間宮中尉が経験した昭和13年(1938)のハルハ河左岸での出来事や戦後シベリア抑留中の出来事、ナツメグ親子が語る昭和20年(1945)の新京の動物園での出来事がこの物語になにがしかの関係性を示唆しています。間宮中尉が落とされた砂漠の中の涸れ井戸→旧宮脇邸の涸れ井戸、新京の動物園の主任獣医(ナツメグの父)の右頬の青いあざ→「僕」の右?茲の青いあざ。



◆気になった文章
・つまり僕は、何かで不愉快になったり苛立ったりしたときには、その対象をひとまず僕個人とは関係のないどこか別の区域に移動させてしまう。そしてこう思う。よろしい、僕は今不愉快になったり苛立ったりしている。でもその原因は、もうここにはない領域に入れてしまった。だからそれについてはあとでゆっくりと検証し、処理することにしようじゃないか、と。そうして一時的に自分の感情を凍結してしまうわけだ。あとになって、その凍結を解いてゆっくりと検証を行ってみて、まだたしかに感情がかき乱されるということもある。しかしそのようなことはむしろ例外に近い。しかるべき時間の経過によって、大抵のものごとは毒気を抜かれて無害なものになりはてている。そして僕は遅かれ早かれそのことを忘れてしまう。(第1部 P147-148)

・(笠原メイ)「私は思うんだけれど、自分がいつかは死んでしまうんだとわかっているからこそ、人は自分がここにこうして生きていることの意味について真剣に考えないわけにはいかないんじゃないのかな。だってそうじゃない。いつまでもいつまでも同じようにずるずると生きていけるのなら、誰が生きることについて真剣に考えたりするかしら。そんな必要がどこにあるかしら。もしたとえ仮に真剣に考える必要がそこにあったとしてもよ、『時間はまだまだたっぷりあるんだ。またいつかそのうちに考えればいいや』ってことになるんじゃないかな。でも実際にはそうじゃない。私たちは今、ここでこの瞬間に考えなくちゃいけないのよ。明日の午後私はトラックにはねられて死ぬかもしれない。三日後の朝にねじまき鳥さんは井戸の底で飢え死にしているかもしれない。そうでしょう? 何が起こるかは誰にもわかんないのよ。だから私たちが進化するためには、死というものがどうしても必要なのよ。私はそう思うな。死というものの存在が鮮やかで巨大であればあるほど、私たちは死にもの狂いでものを考えるわけ」(第2部 P162-163)

・(叔父)「自分にとっていちばん大事なことは何かということを、お前はもう一度よくよく考えてみた方がいいと思うよ」
)「ずいぶん考えてはいるんですよ。でもいろんなことがものすごく複雑にしっかりと絡み合っていて、ひとつひとつほどいて独立させることができないんです。どうやってほどけばいいのか僕にはわからない」
叔父)「コツというのはね、まずあまり重要じゃないところから片づけていくことなんだよ。つまりAからZまで順番をつけようと思ったら、Aから始めるんじゃなくて、 XYZのあたりから初めていくんだよ。お前はものごとがあまりにも複雑に絡み合っていて手がつけられないと言う。でもそれはね、いちばん上からものごとを解決していこうとしているからじゃないかな。何か大事なことを決めようと思った時はね、まず最初はどうでもいいようなところから始めた方がいい。誰が見てもわかる、誰が考えてもわかる本当に馬鹿みたいなところから始めるんだ。そしてその馬鹿みたいなところにたっぷりと時間をかけるんだ」(第2部 P312、抜粋して引用)

・(靴屋の店員)「汚れてもいい古い靴がひとつあると、何かのときにけっこう便利なものですよ」(第3部 P73)

・自分がそのプールをクロールで往復しているところを想像してみる。スピードのことは忘れて、ただ静かにゆっくりといつまでも泳ぐ。余計な音を立てないように、余計な水しぶきを立てないように、肘を静かに水から抜き、指先からそっと差し込む。水の中で呼吸をしているように、口の中に水を含みゆっくりと吐き出す。しばらく泳いでいるうちに、自分の身体がまるで緩やかな風に乗るように、自然に水の中を流れていることを感じる。耳に届くのは僕が呼吸する規則的な音だけだ。僕は空を飛ぶ鳥のように風の中に浮かんで、静かに地上の光景を見おろしている。遠い町や小さな人々や河の流れを目にしている。僕は穏やかな気持ちに包まれていく。うっとりすると言ってもいいくらいだ。泳ぐことは、僕の人生に起こったもっともすばらしいことのひとつだった。それは僕の抱えた問題を何も解決しなかったけれど、また何も損なわなかった。そして何からも損なわれることのないものだった。泳ぐこと。(第3部 P406-407)

◆作品中に登場する音楽一覧
🎵 ロッシーニ『泥棒かささぎ』の序曲
🎵 ラジオ・カセットから流れるハード・ロック
🎵 ハーブ・アルパート「マルタ島の砂」
🎵 パーシー・フェイス・オーケストラ「タラのテーマ」「夏の日の恋」
🎵 アンディ・ウィリアムス「ハワイアン・ウェディング・ソング」「カナディアン・サンセット」

🎵 イージーリスニング・ミュージックのカセット・テープ~セルジオ・メンデス、ベルト・ケンプフェルト、101ストリングス
🎵 マイケル・ジャクソン「ビリー・ジーン」
🎵 ジョニー・エンジェル
🎵 バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ
🎵 ロバート・マックスウェルのハープによる「ひき潮」

🎵 大編成のオーケストラ用に編曲されたビートルズの「エイト・デイズ・ア・ウィーク」
🎵 チャイコフスキーの弦楽セレナーデ
🎵 シューマン『森の情景』の第7曲「予言する鳥」
🎵 カセットテープで聴くクラシック音楽
🎵 バート・バカラック「サン・ホセへの道」

🎵 フランク・シナトラ「ドリーム」「リトル・ガール・ブルー」
🎵 ハイドンのカルテット
🎵 バッハのハープシコード曲らしきもの
🎵 ブルース・スプリングスティーン
🎵 キース・ジャレットのソロピアノ

🎵 モーツァルト『魔笛』
🎵 バッハとモーツァルト
🎵 プーランクとバルトーク
🎵 ロッシーニの宗教曲
🎵 ヴィヴァルディの管楽器のコンチェルト

🎵 バッハ『音楽の捧げもの』
🎵 有線放送から流れるバリー・マニロウ、エア・サプライ
🎵 モーツァルトやハイドンのソナタ
🎵 ヘンデルのコンチェルト・グロッソ
🎵 バロック音楽

🎵 プールで天井のスピーカーから聞こえるクリスマス音楽


◆作品中に登場するクルマ一覧
●赤いホンダ・シビック
●トヨタMR2
●古い型のジャガーとアルファロメオ
●真っ黒なメルセデス・ベンツ500SEL
●ぴかぴかに磨きあげられたメルセデス・ベンツやポルシェ

●中古のポルシェ・カレラ



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