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村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を読みました。(再々)

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 今日、村上春樹の長編第4作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(1985)を読み終えました。(再々)
 6月以来、村上春樹の長編小説を読み続けてきましたが、これで全14作中7作を読み終えました。残りの7作については、何ヶ月かして気が向いたら読もうと思います。残りの7作は以下の通りです。
・『風の歌を聴け』(79)
・『1973年のピンボール』(80)
・『ノルウェイの森』(87)
・『国境の南、太陽の西』(92)
・『スプートニクの恋人』(99)
・『アフターダーク』(04)
・『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(13)

 この作品について、ブックカバー裏表紙の解説を引用します。
上巻
 高い壁に囲まれ、外界との接触がまるでない街で、そこに住む一角獣たちの頭骨から夢を読んで暮らす〈僕〉の物語、〔世界の終り〕。老科学者により意識の核に或る思考回路を組み込まれた〈私〉が、その回路に隠された秘密を巡って活躍する〔ハードボイルド・ワンダーランド〕。静寂な幻想世界と波瀾万丈の冒険活劇の二つの物語が同時進行して織りなす、村上春樹の不思議の国。

下巻
 〈私〉の意識の核に思考回路を組み込んだ老博士と再会した〈私〉は、回路の秘密を聞いて愕然とする。私の知らない内に世界は始まり、知らない内に終わろうとしているのだ。残された時間はわずか。〈私〉の行く先は永遠の生か、それとも死か? そして又、〔世界の終り〕の街から〈僕〉は脱出できるのか? 同時進行する二つの物語を結ぶ、意外な結末。村上春樹のメッセージが、君に届くか!?

【感想等】
◆この作品は、「ハードボイルド・ワンダーランド」と「世界の終り」の2つの物語が交互に展開します。
 「ハードボイルド・ワンダーランド」は、シャフリング能力を身につけた計算士の「私」が、脳内に新たなプログラムを組み込まれたために様々な困難に出会う物語です。「世界の終り」は、「私」の脳内で展開する物語で、新しく組み込まれたプログラムのために、予想のつかない物語となっていきます。
 「私」は「世界の終り」の物語を知ることは出来ませんでしたが、やがて新しいプログラムのために、「私」の物語と「世界の終り」の物語が錯綜していきます。

◆やがて、2つの物語ははっきりとリンクします。キーワードは「ダニー・ボーイ」です。以下、そのリンクする場面を引用します。
 私はビング・クロスビーの唄にあわせて『ダニー・ボーイ』を唄った。
(35 ハードボイルド・ワンダーランド)

 それは唄だった。完全な唄ではないが、唄の最初の一節だった。僕はその3つのコードと12音を何度も何度も繰りかえしてみた。それは僕がよく知っているはずの唄だった。
『ダニー・ボーイ』
 僕は目を閉じて、そのつづきを弾いた。題名を思いだすと、あとのメロディーとコードは自然に僕の指先から流れ出てきた。
(36 世界の終り)

◆以前はそれほど好きな作品ではありませんでしたが、僕なりに作品の構成や内容への理解が深まったからでしょうか、現時点では長編小説14作品中1番の評価になりました。

◆『騎士団長殺し』の騎士団長ほどではありませんが、この作品に登場する老博士も笑い方やしゃべり方がとてもユニークです。こういう言葉遊びもこの作家のおもしろいところだと思います。
 老人はまたふおっほっほと楽しそうに笑った。「そう、そのとおり。人間の頭蓋骨の固有の信号にあわせて、音を抜いたり増やしたりすることができるです。人それぞれに頭蓋骨の形は違うから完全には抜けんが、かなり小さくすることはできるです。・・・」(P62)

◆この作品の登場人物には誰にも名前が与えられていません。せめて、老博士の孫娘と図書館のリファレンス係の女の子には名前があればいいのにと思います。
 孫娘は「モモ」で、リファレンス係の女の子は「ケイコ」なんていうのはどうでしょう。



◆主な登場人物(登場順)
《ハードボイルド・ワンダーランド》
・私〈計算士〉(35)
・老博士の孫娘(17)
・老博士
・やみくろ
・リファレンス係の女の子(29)
・ちび、大男
《世界の終り》
・僕〈夢読み〉
・一角獣
・門番
・図書館の女の子
・影
・大佐
・発電所の管理人

◆気になった文章
・私はつねづねソファー選びにはその人間の品位がにじみ出るものだと――またこれはたぶん偏見だと思うが――確信している。ソファーというものは犯すことのできない確固としたひとつの世界なのだ。しかしこれは良いソファーに座って育った人間にしかわからない。良い本を読んで育ったり、良い音楽を聴いて育ったりするのと同じだ。ひとつの良いソファーはもうひとつの良いソファーを生み、悪いソファーはもうひとつの悪いソファーを生む。そういうものなのだ。
 私は高級車を乗りまわしながら家には二級か三級のソファーしか置いていない人間を何人か知っている。こういう人間を私はあまり信用しない。高い車にはたしかにそれだけの価値はあるのだろうが、それはただ単に高い車というだけのことである。金さえ払えば誰にだって買える。しかし良いソファーを買うにはそれなりの見識と経験と哲学が必要なのだ。金はかかるが、金を出せばいいというものではない。ソファーとは何かという確固としたイメージなしには優れたソファーを手に入れることは不可能なのだ。(上巻 P78)
 ~最近、リビングのソファーを20数年ぶりに買い替えたので、とても気になる文章でした。ソファーを買うには、「それなりの見識と経験と哲学」が必要だったなんて知りませんでした。

・私は死ぬこと自体はそんなに怖くはなかった。ウィリアム・シェイクスピアが言っているように、今年死ねば来年はもう死なないのだ。(上巻 P89)
 ~『ヘンリー4世』からの引用

・私のシャフリングのパスワードは〈世界の終り〉である。私は〈世界の終り〉というタイトルのきわめて個人的なドラマに基づいて、洗いだし(ブレイン・ウォッシュ)の済んだ数値をコンピューター計算用に並びかえるわけだ。もちろんドラマといってもそれはよくTVでやっているような種類のドラマとはまったく違う。もっとそれは混乱しているし、明確な筋もない。ただ便宜的に「ドラマ」と呼んでいるだけのことだ。しかしいずれにせよそれがどのような内容のものなのかは私にはまったく教えられてはいない。私にわかっているのはこの〈世界の終り〉というタイトルだけなのだ。
 このドラマを決定したのは『組織(システム)』の科学者連中だった。私が計算士になるためトレーニングを1年にわたってこなし、最終試験をパスしたあとで、彼らは私を2週間冷凍し、そのあいだに私の脳波の隅から隅まで調べあげ、そこから私の意識の核ともいうべきものを抽出してそれを私のシャフリングのためのパス・ドラマと定め、そしてそれを今度は逆に私の脳の中にインプットしたのである。彼らはそのタイトルは〈世界の終り〉で、それが君のシャフリングのためのパスワードなのだ、と教えてくれた。そんなわけで、私の意識は完全な二重構造になっている。つまり全体としてのカオスとしての意識がまず存在し、その中にちょうど梅干しの種のように、そのカオスを要約した意識の核が存在しているわけだ。
 しかし彼らはその意識の核の内容を私には教えてはくれなかった。(上巻 P190-91)
 ~「世界の終り」は、「私」の「意識の核」の中で展開している物語(ドラマ)ですが、「私」はその内容を知りません。そして、「世界の終り」の「僕」は自分がなぜそこにいるのか知りません。

・私が『ルージン』をこの前読んだのは大学生のときで、15年も前の話だった。15年たって、腹に包帯を巻きつけられてこの本を読んでみると、私は以前よりは主人公のルージンに対して好意的な気持を抱けるようになっていることに気づいた。人は自らの欠点を正すことはできないのだ。人の性向というものはおおよそ25までに決まってしまい、そのあとはどれだけ努力したところでその本質を変更することはできない。問題は外的世界がその性向に対してどのように反応するかということにしぼられてくるのだ。ウィスキーの酔いも手伝って、私はルージンに同情した。私はドストエフスキーの小説の登場人物には殆んど同情なんてしないのだが、ツルゲーネフの小説の人物にはすぐに同情してしまうのだ。私は「87分署」シリーズの登場人物にだって同情してしまう。たぶんそれは私自身の人間性にいろいろと欠点があるせいだろう。欠点の多い人間は同じように欠点の多い人間に対して同情的になりがちなものなのだ。
(中略)
 いずれにせよ、私は『赤と黒』を読みながら、またジュリアン・ソレルに同情することになった。ジュリアン・ソレルの場合、その欠点は15歳までに決定されてしまったようで、その事実も私の同情心をあおった。15歳にしてすべての人生の要因が固定されてしまうというのは、他人の目から見ても非常に気の毒なことだった。それは自らを強固な監獄に押しこめるのと同じことなのだ。壁に囲まれた世界にとじこもったまま、彼は破滅へと進みつづけるのだ。(上巻 P267-77)
 ~ツルゲーネフ『ルージン』とスタンダール『赤と黒』を読書リストに入れます。

・セーターの袖のところにペリカンのロイヤル・ブルーのインクのシミがゴルフ・ボールくらいの大きさに付着していた。(上巻 P279-80)
 ~最近はペリカンの万年筆がお気に入りで、メインの万年筆にはロイヤル・ブルーのインクを入れて使っています。

・「信じていれば怖いことなんて何もないのよ。楽しい思い出や、人を愛したことや、泣いたことや、子供の頃のことや、将来の計画や、好きな音楽や、そんな何でもいいわ。そいうことを考えつづけていれば、怖がることはないのよ」(上巻 P372-73)

・「そうじゃなくて声が特別なの」と彼女は言った。「まるで小さな子が窓に立って雨ふりをじっと見つめているような声なんです」(下巻 P244)
 ~レンタカーの代理店の若い女性がボブ・ディランの声を評して言った言葉。

◆作品中に登場する音楽/ミュージシャン一覧
♫ 「ダニー・ボーイ」
♫ 「アニー・ローリー」
♫ ロベール・カサドシュがモーツァルト のコンチェルトを弾いた古いレコード(ピアノ協奏曲第23番・第24番)
♫ 「ティーチ・ミー・トゥナイト」の入ったジョニー・マティスのレコード
♫ マイケル・ジャクソン

♫ チャーリー・パーカー
♫ デュラン・デュラン
♫ ステッペンウルフ「ボーン・トゥー・ビー・ワイルド」
♫ マービン・ゲイ「悲しいうわさ」
♫ MJQ(モダン・ジャズ・カルテット)「ヴァンドーム」

♫ ジミ・ヘンドリックス、クリーム、ビートルズ、オーティス・レディング
♫ ピーター・アンド・ゴードン「アイ・ゴー・トゥー・ピーセズ」
♫ ポリス
♫ マッチ、松田聖子
♫ ボブ・マーリー

♫ ジム・モリソン(ドアーズ)、レーモン・ルフェーブル・オーケストラ、ビアホールのポルカ、ヴェンチャーズ
♫ ブルックナーのシンフォニー
♫ ラヴェル「ボレロ」
♫ ジョニー・マティスのベスト・セレクション、ツビン・メータ指揮のシェーンベルク『浄夜』、ケニー・バレル『ストーミー・サンデイ』、デューク・エリントン『ポピュラー・エリントン』、トレヴァー・ピノック『ブランデンブルク・コンチェルト』、「ライク・ア・ローリング・ストーン」の入ったボブ・ディランのテープ、ジェームズ・テイラー、ウィンナ・ワルツ、ポリス、デュラン・デュラン
♫ ボブ・ディラン「ウォッチング・ザ・リヴァー・フロー」

♫ ジョージ・ハリソン
♫ ボブ・ディラン「ポジティヴ・フォース・ストリート」
♫ スティーヴィー・ワンダー
♫ ボブ・ディラン、ビートルズ、ドアーズ、バーズ、ジミ・ヘンドリックス
♫ ボブ・ディラン「メンフィス・ブルーズ・アゲイン」

♫ ボブ・ディラン「ライク・ア・ローリング・ストーン」
♫ 『ブランデンブルク・コンチェルト』~トレヴァー・ピノック/カール・リヒター/パブロ・カザルス
♫ ベニー・グッドマン
♫ ジャッキー・マクリーン、
マイルズ・デイヴィス、ウィントン・ケリー
♫ マイルズ・デイヴィス「バッグズ・クルーヴ」「飾りのついた四輪馬車」

♫ パット・ブーン「アイル・ビー・ホーム」
♫ レイ・チャールズ「ジョージア・オン・マイ・マインド」
♫ ビング・クロスビー「ダニー・ボーイ」
♫ ロジャー・ウィリアムズ「枯葉」
♫ フランク・チャックスフィールド・オーケストラ「ニューヨークの秋」

♫ ウディー・ハーマン「アーリー・オータム」
♫ デューク・エリントン・オーケストラ「ドゥー・ナッシン・ティル・ユー・ヒア・フロム・ミー」「ソフィスティケーティッド・レディー」
♫ ボブ・ディラン「風に吹かれて」「激しい雨」

◆作品中の登場する車一覧
●黄色い小型の国産車
●フォルクスワーゲン・ゴルフ
●スポーツタイプの白いスカイライン
●シビック
●カリーナ1800GT・ツインカムターボ

●マーク
●緑色の小型スポーツ・カー


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