Quantcast
Channel: my photo diary
Viewing all articles
Browse latest Browse all 681

穂村弘『ラインマーカーズ The Best of Homura Hiroshi』を読みました。

$
0
0
イメージ 1

穂村弘の、音楽でいうとベスト盤のような歌集『ラインマーカーズ The Best of Homura Hiroshi』(2003)を読みました。以下、いいなと思った歌(=くり返し読んでみたいと思った歌)を引用します。


  「酔ってるの?あたしが誰かわかってる?」「ブーフーウーのウーじゃないかな」
  許せない自分に気づく手に受けたリキッドソープのうすみどりみて
  ほんとうにおれのもんかよ冷蔵庫の卵置き場に落ちる涙は
  ハーブティーにハーブ煮えつつ春の夜の嘘つきはどらえもんのはじまり
  「前世は鹿です」なんて嘘をためらわぬおまえと踊ってみたい

  愚かなかみなりみたいに愛してやるよジンジャエールに痺れた舌で
  「さかさまに電池を入れられた玩具(おもちゃ)の汽車みたいにおとなしいのね」
  春を病み笛で呼びだすマグマ大使に「葛湯つくって」
  人はこんなに途方に暮れてよいものだろうか シャンパン色の熊
  「自転車のサドルを高く上げるのが夏をむかえる準備のすべて」

  罪の定義は任せるよセメダインの香に包まれし模型帆船
  積乱と呼ばれし雲よ 錆色のくさり離してブランコに立つ
  真夜中の大観覧車にめざめればいましも月にせまる頂点
  秋になれば秋が好きよと爪先でしずかにト音記号を描く
  くちうつしのホールズ光る地下鉄の十色使いの路線図の前

  雨の中でシーソーに乗ろう把手まであおく塗られたあのシーソーに
  「許さない」と瞳(め)が笑ってるその前にゆれながら運ばれてくるゼリー
  「鮫はオルガンの音が好きなの知っていた?」五時間泣いた後におまえは
  査定0の車に乗って海へゆく誘拐犯と少女のように
  抱きたいといえば笑うかはつなつの光に洗われるラムネ玉

  ガードレール跨いだままのくちづけは星が瞬くすきを狙って
  キスに眼を閉じないなんてまさかおまえ天使に魂を売ったのか?
  夜のあちこちでTAXIがドア開く飛び発つかぶと虫の真似して
  水銀灯ひとつひとつに一羽づつ鳥が眠っている夜明け前
  風の交叉点すれ違うとき心臓に全治二秒の手傷を負えり

  「フレミングの左手の法則憶えてる?」「キスする前にまず手を握れ」
  「人類の恋愛史上かつてないほどダーティーな反則じゃない?」
  飛ばされて帽子は海へ 今朝はもうおまえの心などみたくない
  忘れたいことを忘れろアルファベットクッキー池のアヒルに投げて
  眩しいと云ってめざめる者の眼を掌で覆うときはじまる今日よ

  惑星別重力一覧眺めつつ「このごろあなたのゆめばかりみる」
  文字盤に輝く WATER RESISTANT SHOCK RESISTANT LOVE RESISTANT
  超長期天気予報によれば我が一億年後の誕生日 曇り
  このあろはしゃつきれいねとその昔ファーブルの瞳(め)で告げたるひとよ
  瓦斯タンクにのぼってみたい、と囁かれ、ぼくらはこんなにも、風のなか

  恋人のあくび涙のうつくしいうつくしい夜は朝は巡りぬ
  本当のおかっぱにって云ったのに、意気地なしの床屋め
  はい、と頷いて、しばらく考える、イエーイの方がよかったかしら
  蛸といえば吸盤、冬といえば雪、夜の散歩といえば私たち。
  もうずいぶんながいあいだ生きてるの、ばかにしないでくれます。ぷん

  時間望遠鏡を覗けば抱きあって目を閉じているふたりがみえる
  それはそれは愛しあってた脳たちとラベルに書いて飾って欲しい
  「美」が虫にみえるのことをユミちゃんとミナコの前でいってはだめね
  外からはぜんぜんわからないでしょう こんなに舌を火傷している
  恋びとの腋剃りあげて口づける夜明けのなかに夏がきている

  ピアノの調律師が来たよ、と云いあってシーツのなかで息をころせり


Viewing all articles
Browse latest Browse all 681

Trending Articles