今日、俵万智の『あなたと読む恋の歌百首』を読み終えました。
百人の歌人、百首の歌、百通りの恋。それはもう「恋」という一つの言葉ではくくりきれないほど多様なものだけれど、やっぱり「恋」としか言いようがない人の心のありようだ、とも思う。(「文庫版のためのあとがき」より)俵万智が選んだ100人の歌人の100首の恋の歌。見開き2ページごとに歌1首と彼女の解説が載っています。さまざまな恋愛があり、なかなかの感じです。以下、気になった歌を引用します。
きみが歌うクロッカスの歌も新しき家具の一つに数えむとする 寺山修司
いつかふたりになるためのひとりやがてひとりになるためのふたり 浅井和代
われらかつて魚(うを)なりし頃かたらひし藻の蔭に似るゆふぐれ来たる 水原紫苑
たとふれば心は君に寄りながらわらはは西へでは左様なら 紀野 恵
月面に脚が降り立つそのときもわれらは愛し愛されたきを 村木道彦
わがおもふをとめこよひは遠くゐて人とあひ寝るさ夜ふけにけり 岡野弘彦
観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日(ひとひ)我には一生(ひとよ) 栗木京子
あの夏の数かぎりなきそしてまたたつた一つの表情をせよ 小野茂樹
トホホホホとはわれの口癖 情けなや惚れていしゆえ別れてしまえり 晋樹隆彦
かの時に言ひそびれたる/大切の言葉は今も/胸にのこれど 石川啄木
やがて死が堰き隔てむに忘失の刻(とき)あり人は生きて別るる 稲葉京子
月に立つ君のそびらのひとつほくろ告げざれば永久(とは)にわれのみのもの 青井 史
謝られ満たされてしまふまた続けるしかなくなつてしまふ 辰巳泰子
たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか 河野裕子
約束の果されぬ故につながれる君との距離をいつくしみをり 辻 敦子
体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ 穂村 弘
せつなさと淋しさの違い問うきみに口づけをせり これはせつなさ 田中章義
君かへす朝の舗石(しきいし)さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ 北原白秋
待つといふ苦しきことを知らぬ身となりたる今日のあはれなるかな 原 阿佐緒
相触れて帰りきたりし日のまひる天の怒りの春雷ふるふ 川田 順
息あつくわれをまく腕耐へてきしかなしみをこそ抱(いだ)かれたきを 沢口芙美
暖かき春の河原の石しきて背中あはせに君と語りぬ 馬場あき子
別れむとする悲しみにつながれてあへばかはゆしすてもかねたる 前田夕暮
唇をよせて言葉を放てどもわたしとあなたはわたしとあなた 阿木津 英
肌の内に白鳥を飼うこの人は押さえられしかしおりおり羽ぶく 佐佐木幸綱
君に逢ひ得む唯それだけの希(ねが)ひ抱き縁うすき人の葬送にゆく 辻下淑子
会ひすぎるほど会ひしかどしだいしだいに会はずなりいまはまつたく会はず 安立スハル
象(かたち)のみ筑紫の国をさまよひぬ心は君に置きて来ぬれば 吉井 勇
愛うすくなりつつ旅をつづけ来て支線分るる駅に別れき 高嶋健一
モジリァニの絵の中の女が語りかく秋について愛についてアンニュイについて 築地正子
タッチアップなど分かっているのか神宮で原を観ている君のまばたき 黒岩剛仁
あやまてる愛などありや冬の夜に白く濁れるオリーブの油 黒田淑子
一生の暗きおもひとするなかれわが面の下にひらくくちびる 篠 弘
ギリシャ悲劇観てゐる君の横がほに舞台の淡きひかり来てをり 高野公彦