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永田和宏『近代秀歌』を読みました。

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昨夜、永田和宏の『近代秀歌』(2013)を読み終えました。内容については、巻頭の「はじめに」の一部を引用します。
 本書で私は、近代以降に作られた歌のなかから、100首を選んで解説と鑑賞をつけるという作業を行った。‥‥‥。100首の選びはできるだけ私の個人的な好悪を持ちこまず、誰もが知っているような、あるいは誰もに知っていて欲しいと思う100首を選ぶよう心がけた。ここに選ばれたそれぞれは、おそらくどこかで一度や二度は耳にしたり目にしたりしたことがある歌であろう。
 あらかじめ断っておけば、ここに選ばれた100首は、近代のもっともすぐれた100首という選びとは微妙に異なる。、‥‥‥。ベスト100や、十分条件としての100ではなく、必要条件としての100というつもりである。
 挑戦的な言い方をすれば、あなたが日本人なら、せめてこれくらいの歌は知っておいて欲しい(原文は傍点)というぎりぎりの100首であると思いたい。

◆100首に取り上げられた歌人
 会津八一/明石海人/石川啄木/伊藤左千夫/太田水穂/岡本かの子/落合直文/尾上柴舟/川田順/北原白秋/北見志保子/木下利玄/窪田空穂/古泉千樫/斎藤茂吉/佐佐木信綱/島木赤彦/釈迢空/土屋文明/土岐善麿/長塚節/中村憲吉/原阿佐緒/前田夕暮/正岡子規/松村英一/山川登美子/与謝野晶子/与謝野鉄幹/吉井勇/若山牧水

◆以下、気になった歌を引用します。

【第一章 恋・愛――人恋ふはかなしきものと】
  やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君(与謝野晶子『みだれ髪』)
  それとなく紅き花みな友にゆづりそむきて泣きて忘れ草つむ(山川登美子『恋衣』)
  木に花咲き君わが妻とならむ日の四月なかなか遠くもあるかな(前田夕暮『収穫』)
  君かへす朝の舗石(しきいし)さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ(北原白秋『桐の花』)
  人妻をうばはむほどの強さをば持てる男のあらば奪(と)られむ(岡本かの子『かろきねたみ』)
    [参考]たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか(河野裕子)

  吾がために死なむと云ひし男らのみなながらへぬおもしろきかな(原阿佐緒『涙痕』)
  相触れて帰りきたりし日のまひる天の怒りの春雷ふるふ(川田順『東帰』)

【第二章 青春――その子二十櫛にながるる黒髪の】
  その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな(与謝野晶子『みだれ髪』)
  不来方のお城の草に寝ころびて/空に吸はれし/十五の心(石川啄木『一握の砂』)
  東海の小島の磯の白砂に/われ泣きぬれて/蟹とたはむる(石川啄木『一握の砂』)

【第三章 命と病い――あかあかと一本の道とほりたり】
  今朝の朝の露ひやびやと秋草やすべて幽(かそ)けき寂滅(ほろび)の光(伊藤左千夫『左千夫歌集』)
  もの忘れまたうち忘れかくしつつ生命をさへや明日は忘れむ(太田水穂『老蘇(おいそ)の森』)
    [参考]こぞの年あたりよりわが性欲は淡くなりつつ無くなるらしも(斎藤茂吉)

【第四章 家族・友人――友がみなわれよりえらく見ゆる日よ】
  父君よ今朝はいかにと手をつきて問ふ子を見れば死なれざりけり(落合直文『萩之家歌集』)
  隣室に書(ふみ)よむ子らの声きけば心に沁みて生きたかりけり(島木赤彦『柿蔭集』)
  其子等に捕へられむと母が魂(たま)蛍と成りて夜を来たるらし(窪田空穂『土を眺めて』)
  時代ことなる父と子なれば枯山に腰下ろし向ふ一つ山脈(やまなみ)に(土屋文明『山下水』)

【第五章 日常――酒はしづかに飲むべかりけり】
  かんがへて飲みはじめたる一合の二合の酒の夏のゆふぐれ(若山牧水『死か芸術か』)
  白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり(若山牧水『路上』)
  柿の実のあまきもありぬ柿の実のしふきもありぬしふきそうまき(正岡子規『竹乃里歌』)
  街をゆき子供の傍を通る時蜜柑の香(か)せり冬がまた来る(木下利玄『紅玉』)
  ふるさとの訛(なまり)なつかし/停車場の人ごみの中に/そを聴きにゆく(石川啄木『一握の砂』)
    [参考]石をもて追はるるごとく/ふるさとを出でしかなしみ/消ゆる時なし(石川啄木)

  にんじんは明日蒔けばよし帰らむよ東一華(あづまいちげ)の花も閉ざしぬ(土屋文明『山下水』)

【第六章 社会と文化――牛飼が歌よむ時に】
  りんてん機、今こそ響け。/うれしくも、/東京版に、雪のふりいづ。(土岐善麿『黄昏に』)
  新しき明日の来(きた)るを信ずといふ/自分の言葉に/嘘はなけれど――(石川啄木『悲しき玩具』)
  ただひとり吾より貧しき友なりき金のことにて交(まじはり)絶てり(土屋文明『往還集』)
    [参考]吾がもてる貧しきものの卑しさを是の友に見て堪へがたかりき(土屋文明)
  遺棄死体数百といひ数千といふいのちをふたつもちしものなし(土岐善麿『六月』)
    [参考]あなたは勝つものとおもつてゐましたかと老いたる妻のさびしげにいふ(土岐善麿)
  垣山(かきやま)にたなびく冬の霞あり我にことばあり何か嘆かむ(土屋文明『山下水』)

  鎌倉や御仏なれど釈迦牟尼は美男におはす夏木立かな(与謝野晶子『恋衣』)
  かにかくに祇園はこひし寐るときも枕の下を水のながるる(吉井勇『酒ほがひ』)

【第七章 旅――ゆく秋の大和の国の】
  幾山河越えさり行かば寂しさの終(は)てなむ国ぞ今日も旅ゆく(若山牧水『海の声』)
  ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲(佐佐木信綱『新月』)
  ほととぎす嵯峨へは一里京へ三里水の清滝夜の明けやすき(与謝野晶子『みだれ髪』)
  ああ皐月仏蘭西の野は火の色す君も雛罌粟(コクリコ)われも雛罌粟(与謝野晶子『夏より秋へ』)
  朝あけて船より鳴れる太笛(ふとぶえ)のこだまはながし竝(な)みよろふ山(斎藤茂吉『あらたま』)

  葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり(釈迢空『海やまのあひだ』)

【第八章 四季・自然――馬追虫の髭のそよろに来る秋は】
  くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる(正岡子規『竹乃里歌』)
  瓶にさす藤の花ぶさみじかければたゝみの上にとゞかざりけり(正岡子規『竹乃里歌』)
  池水は濁りににごり藤なみの影もうつらず雨ふりしきる(伊藤左千夫『左千夫歌集』)
  高槻(たかつき)のこずゑにありて頬白のさへづる春となりにけるかも(島木赤彦『太虗集』)
    [参考]いはばしる垂水(たるみ)の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも(志貴皇子)
  うすべにに葉はいちはやく萌えいでて咲かむとすなり山桜花(若山牧水『山桜の歌』)
    [参考]敷しまの倭こゝろを人とはは朝日ににほふ山さくら花(本居宣長)

  牡丹花(ぼたんくわ)は咲き定まりて静かなり花の占めたる位置のたしかさ(木下利玄『一路』)
    [参考]牡丹散(ちり)て打(うち)かさなりぬ二三片(にさんぺん)(与謝蕪村)
  向日葵は金の油を身にあびてゆらりと高し日のちひささよ(前田夕暮『生くる日に』)
  この三朝(みあさ)あさなあさなをよそほひし睡蓮の花今朝はひらかず(土屋文明『ふゆくさ』)
  金色(こんじき)のちひさき鳥のかたちして銀杏ちるなり夕日の岡に(与謝野晶子『恋衣』)
  馬追虫(うまおひ)の髭のそよろに来る秋はまなこを閉ぢて想ひ見るべし(長塚節『長塚節歌集』)

  曼珠沙華一(ひと)むら燃えて秋陽(あきび)つよしそこ過ぎてゐるしづかなる径(みち)(木下利玄『みかんの木』)
  みんなみの嶺岡山の焼くる火のこよひも赤く見えにけるかも(古泉千樫『川のほとり』)
  白埴の瓶こそよけれ霧ながら朝はつめたき水くみにけり(長塚節『長塚節歌集』)
  みづうみの氷は解けてなほ寒し三日月の影波にうつろふ(島木赤彦『太虗集』)

【第九章 孤の思い――沈黙のわれに見よとぞ】
  やはらかに柳あをめる/北上の岸辺目に見ゆ/泣けとごとくに(石川啄木『一握の砂』)
    [参考]石をもて追はるるごとく/ふるさとを出でしかなしみ/消ゆる時なし(石川啄木)
        ふるさとの山に向(むか)ひて/言ふことなし/ふるさとの山はありがたきかな(石川啄木)
  白鳥(しらとり)は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ(若山牧水『海の声』)
  昼ながら幽かに光る螢一つ孟宗の藪を出でて消えたり(北原白秋『雀の卵』)
    [参考]見わたせば花も紅葉もなかりけり浦のとまやの秋の夕暮(藤原定家)
  おりたちて今朝の寒さを驚きぬ露しとしとと柿の落葉深く(伊藤左千夫『左千夫歌集』)
  沈黙のわれに見よとぞ百房の黒き葡萄に雨ふりそそぐ(斎藤茂吉『小園』)

【第十章 死――終りなき時に入らむに】
  死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる(斎藤茂吉『赤光』)
  やまばとの とよもすやどの しづもりに なれはもゆくか ねむるごとくに(会津八一『寒燈集』)
  たゝかひに果てにし子ゆゑ、身に沁みて ことしの桜 あはれ 散りゆく(釈迢空『倭をぐな』)
  いちはつの花咲きいでゝ我目には今年ばかりの春行かんとす(正岡子規『竹乃里歌』)
  左様ならが言葉の最後耳に留めて心しづかに吾を見給へ(松村英一『樹氷と氷壁以後』)


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