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永田和宏『現代秀歌』を読みました。

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今日、永田和宏の『現代秀歌』(2014)を読み終えました。内容について、巻頭の「はじめに」の一部を引用します。
 本書は、2013年のはじめに岩波新書として刊行した『近代秀歌』の姉妹篇にあたる。『近代秀歌』では、落合直文(1861年生)から土屋文明(1890年生)や明石海人(1901年生)までの31人の歌人の作品、100首をとりあげた。‥‥‥。
 本書『現代秀歌』は、『近代秀歌』におさめた以降の歌人を対象としている。‥‥‥。
 前著との明確な違いは、まずとりあげた歌人が100人である点である。一人一首だけを対象とし、他にも紹介したい歌がある場合は、本文中に挿入することにした。何首もの歌を紹介したい歌人ももちろん多いのだが、そうすると取り落としてしまう歌人の数があまりにも多くなりすぎる。やむなく、一人一首としたのである。 

◆100首に取り上げられた歌人
 阿木津英/秋葉四郎/池田はるみ/石川不二子/石田比呂志/伊藤一彦/岩田正/上田三四二/梅内美華子/大島史洋/大辻隆弘/大西民子/大野誠夫/岡井隆/岡野弘彦/岡部桂一郎/沖ななも/奥村晃作/尾崎左永子(松田さえこ)/小野茂樹/香川ヒサ/柏崎驍二/春日真木子/春日井健/加藤克巳/加藤治郎/川野里子/河野裕子/岸上大作/来嶋靖生/木俣修/清原日出夫/葛原妙子/窪田章一郎/栗木京子/小池光/皇后美智子/小島ゆかり/小高賢/五島美代子/小中英之/近藤芳美/今野寿美/三枝之/齋藤史/坂井修一/相良宏/佐佐木幸綱/佐藤佐太郎/佐藤通雅/志垣澄幸/篠弘/島田修三/清水房雄/田井安曇(我妻泰)/瀬一誌/高野公彦/高安国世/竹山広/谷岡亜紀/玉井清弘/玉城徹/田谷鋭/俵万智/塚本邦雄/坪野哲久/寺山修司/富小路禎子/内藤明/永井陽子/中城ふみ子/成瀬有/花山多佳子/馬場あき子/浜田到/浜田康敬/東直子/福島泰樹/辺見じゅん/穂村弘/前登志夫/前川佐美雄/前田透/松平盟子/真鍋美恵子/水原紫苑/道浦母都子/宮柊二/宮英子/武川忠一/村木道彦/森岡貞香/安永蕗子/山崎方代/山田あき/山中智恵子/吉川宏志/米川千嘉子/渡辺直己/渡辺松男

◆以下、気になった歌を引用します。

【第一章 恋・愛――ガサッと落葉すくふやうに】
  たちまちに君の姿を霧とざし或る樂章をわれは思ひき(近藤芳美『早春歌』)
  あの夏の數かぎりなきそしてまたたつた一つの表情をせよ(小野茂樹『羊雲離散』)
  たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか(河野裕子『森のやうに獣のやうに』)
  かたはらにおく幻の椅子一つあくがれて待つ夜もなし今は(大西民子『まぼろしの椅子』)
  「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ(俵万智『サラダ記念日』)

  一度だけ「好き」と思った一度だけ「詞ね」と思った 非常階段(東直子『春原さんのリコーダー』)

【第二章 青春――海を知らぬ少女の前に】
  海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり(寺山修司『空には本』)
  かきくらし雪ふりしきり降りしづみ我は眞實を生きたかりけり(高安国世『Vorfrühling』)
  睡蓮の円錐形の蕾浮く池にざぶざぶと鍬洗ふなり(石川不二子『牧歌』)
  夏の風キリンの首を降りてきて誰からも遠くいたき昼なり(梅内美華子『若月(みかづき)祭』)
  さらば象さらば抹香鯨たち酔いて歌えど日は高きかも(佐佐木幸綱『直立せよ一行の詩』)

【第三章 新しい表現を求めて――父よ父よ世界が見えぬ】
  馬を洗はば馬のたましひ冴ゆるまで人戀はば人あやむるこころ(塚本邦雄『感幻樂』)
  水中より一尾の魚跳ねいでてたちまち水のおもて合はさりき(葛原妙子『葡萄木立』)
    [参考]カレンダーの隅24/31 分母の日に逢う約束がある(吉川宏志)
  さみしさでいっぱいだよとつよくつよく抱きしめあえば空気がぬける(渡辺松男『歩く仏像』)

【第四章 家族・友人――ふるさとに母を叱りてゐたりけり】
  拒みがたきわが少年の愛のしぐさ頤(おとがひ)に手觸り來その父のごと(森岡貞香『白蛾』)
  冬の苺匙に壓(お)しをり別離よりつづきて永きわが孤りの喪(も)(松田さえこ(尾崎左永子)『さるびあ街』)
  夫より呼び捨てらるるは嫌ひなりまして〈おい〉とか〈おまへ〉とかなぞ(松平盟子『シュガー』)
  夫婦は同居すべしまぐわいなすべしといずれの莫迦が掟てたりけむ(阿木津英『白微光』)
  父十三回忌の膳に箸もちてわれはくふ蓮根及び蓮根の穴を(小池光『日々の思い出』)

  ぬばたまの黒羽蜻蛉(あきつ)は水の上母に見えねば告ぐることなし(齋藤史『風に燃す』)
  一枝の櫻見せむと鉄格子へだてて逢ひしはおとうとなりき(辺見じゅん『幻花』)
    [参考]遠桜いのちの距離と思ひけり(角川春樹)

【第五章 日常――大根を探しにゆけば】
  ろくろ屋は轆轤を回し硝子屋は硝子いっしんに切りているなり(石田比呂志『蝉聲集』)
  陶工もかたらずわれも語らざりろくろに壺はたちあがりゆく(玉井清弘『久露』)
  こんなにも湯呑茶碗はあたたかくしどろもどろに吾はおるなり(山崎方代『右左口(うばぐち)』)
  うどん屋の饂飩の文字が混沌の文字になるまでを酔う(瀬一誌『喝采』)
  大根を探しにゆけば大根は夜の電柱に立てかけあり(花山多佳子『木香薔薇』)

  おもむろに階(はし)くだりゆくわが影の幾重にも折れ地上にとどく(来嶋靖生『雷(いかづち)』)
  終バスにふたりは眠る紫の〈降りますランプ〉に取り囲まれて(穂村弘『シンジケート』)
    [参考]サバンナの象のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい(穂村弘)

【第六章 社会・文化――居合はせし居合はせざりしことつひに】
  ひきよせて寄り添ふごとく刺ししかば聲も立てなくくづをれて伏す(宮柊二『山西省』)
  涙拭ひて逆襲し來る敵兵は髪長き廣西學生軍なりき(渡辺直己『渡辺直己歌集』)
  通訳の少年臆しつつ吾に訊(と)ふ吾が教へたる日本語あはれ(前田透『漂流の季節』)
  兵たりしものさまよへる風の市白きマフラーをまきゐたり哀し(大野誠夫『薔薇祭』)
  血と雨にワイシャツ濡れている無援ひとりへの愛うつくしくする(岸上大作『意思表示』)

  ガス弾の匂い残れる黒髪を洗い梳かして君に逢いゆく(道浦母都子『無援の抒情』)
    [参考]その日からきみみあたらぬ仏文の 二月の花といえヒヤシンス(福島泰樹)
        二日酔いの無念極まるぼくのためもっと電車よ まじめに走れ(  〃  )
  居合はせし居合はせざりしことつひに天運にして居合はせし人よ(竹山広『千日千夜』)
    [参考]一分ときめてぬか俯す黙禱の「終り」といへばみな終るなり(竹山広)
  死ぬ側に選ばれざりし身は立ちてボトルの水を喉に流し込む(佐藤通雅『昔話(むがすこ)』)

【第七章 旅――ひまはりのアンダルシアはとほけれど】
  冬山の青岸渡寺の庭にいでて風にかたむく那智の滝みゆ(佐藤佐太郎『形影』)
    [参考]あぢさゐの藍のつゆけき花ありぬぬばたまの夜あかねさす昼(佐藤佐太郎)
        秋分の日の電車にて床にさす光もともに運ばれて行く(  〃  )
  月と日と二つうかべる山国の道に手触れしコスモスの花(岡部桂一郎『戸塚閑吟集』)
    [参考]岩国の一膳飯屋の扇風器まわりておるかわれは行かぬを(岡部桂一郎)
  彼の日彼が指しし黄河を訪ひ得たり戦(いくさ)なき世のエアコンバスにて(宮英子『幕間―アントラクト』)
    [参考]咽喉より血をば喀きつつ戦ひて指しし黄河ぞ光りつつ下る(宮柊二)
  ひまはりのアンダルシアはとほけれどとほけれどアンダルシアのひまはり(永井陽子『モーツァルトの電話帳』)
    [参考]ここに来てゐることを知る者もなし雨の赤穂ににはとり三羽(永井陽子)
        死ぬまへに留守番電話にするべしとなにゆゑおもふ雨の降る夜は(  〃  )
        父を見送り母を見送りこの世にはだあれもゐないながき夏至の日(  〃  )
  帰りたきいろこのみやの大阪やゆきかふものはみなゑらぐなり(池田はるみ『妣(ハハ)が国 大阪』)
    [参考]死ぬ母に死んだらあかんと言はなんだ氷雨が降ればしんしん思ふ(池田はるみ)

  砂渚あゆみ来たれば波しづけしをなみさなみといふ古語のごと(柏崎驍二『四十雀日記』)
    [参考]この世より滅びてゆかむ蜩(かなかな)が最後の〈かな〉を鳴くときあらむ(柏崎驍二)

【第八章 四季・自然――かなしみは明るさゆゑにきたりけり】
  夜半さめて見れば夜半さえしらじらと桜散りおりとどまらざらん(馬場あき子『雪鬼華麗』)
    [参考]夕闇の桜花の記憶と重なりてはじめて聴きし日の君が血のおと(河野裕子)
        夕光(ゆふかげ)のなかにまぶしく花みちてしだれ桜は輝(かがやき)を垂る(佐藤佐太郎)
  まつぶさに眺めてかなし月こそは全(また)き裸身と思ひいたりぬ(水原紫苑『びあんか』)
  かなしみは明るさゆゑにきたりけり一本の樹の翳らひにけり(前登志夫『子午線の繭』)
  春がすみいよよ濃くなる眞晝間のなにも見えねば大和と思へ(前川佐美雄『大和』)
    [参考]ぞろぞろと鳥けだものを引きつれて秋晴の街にあそび行きたし(前川佐美雄)
  鶏ねむる村の東西南北にぼあーんぼあーんと桃の花見ゆ(小中英之『翼鏡』)

  おさきにというように一樹色づけり池のほとりのしずけき桜(沖ななも『天の穴』)

【第九章 孤の思い――秋のみづ素甕にあふれ】
  秋のみづ素甕(すがめ)にあふれさいはひは孤(ひと)りのわれにきざすかなしも(坪野哲久『桜』)
    [参考]曼珠沙華のするどき象(かたち)夢にみしうちくだかれて秋ゆきぬべき(坪野哲久)
  ゆずらざるわが狭量を吹きてゆく氷湖の風は雪巻き上げて(武川忠一『氷湖』)
  とどまるというひとつにも弩(いしゆみ)のごとき努力をして過ぎむのみ(田井安曇『水のほとり』)
  退くことももはやならざる風のなか鳥ながされて森越えゆけり(志垣澄幸『空壜のある風景』)
    [参考]工事場の高き梁にて憩ひゐる工夫ら煙草の火を移し合ふ(志垣澄幸)
        透明をあまた重ねて積みゆけばガラスは海のごとき色もつ(  〃  )
  サンチョ・パンサ思ひつつ来て何かかなしサンチョ・パンサは降る花見上ぐ(成瀬有『游べ、櫻の園へ』)

【第十章 病と死――死はそこに抗ひがたく立つゆゑに】
  もゆる限りはひとに與へし乳房なれ癌の組成を何時よりと知らず(中城ふみ子『乳房喪失』)
    [参考]頼りなく母をよぶ聲傳へくる長距離電話は夜のかぜのなか(中城ふみ子)
  微笑して死にたる君とききしときあはれ鋭き嫉妬がわきぬ(相良宏『相良宏歌集』)
    [参考]やみやせて會ふは羞(やさ)しと死の床に囁きしとぞ君は誰がため(相良宏)
  この向きにて 初(うひ)におかれしみどり兒の日もかくのごと子は物言はざりし(五島美代子『新輯 母の歌集』)
  くりかへし手をのべわが手とらしたりひさしく握りゐたまひにけり(窪田章一郎『硝子戸の外』)
  時間をチコに返してやらうといふやうに父は死にたり時間返りぬ(米川千嘉子『たましひに着る服なくて』)

  先に死ぬしあはせなどを語りあひ遊びに似つる去年(こぞ)までの日よ(清水房雄『一去集』)
    [参考]なほつたら歸つたらと言ふ枕べに寂しくわれはパン食ひをはる(清水房雄)
        死ぬまでに指輪が一つ欲しと言ひしそれより長く長く病(やみ)臥す(  〃  )
  死はそこに抗ひがたく立つゆゑに生きてゐる一日(ひとひ)一日はいづみ(上田三四二『湧井』)
    [参考]つひにゆく道とはかねて聞きしかどきのふけふとは思はざりしを(在原業平)
        たすからぬ病と知りしひと夜経てわれより妻の十年(ととせ)老いたり(上田三四二)

【おわりに】
  一日が過ぎれば一日減つてゆくきみとの時間 もうすぐ夏至だ(永田和宏『夏・二〇一〇』)
    [参考]後(のち)の日々再発虞(おそ)れてありし日々合歓が咲くのを知らずに過ぎた(河野裕子)


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