岩波文庫『わが町・青春の逆説』には、長編小説「わが町」「青春の逆説」が収録されています。
今日、織田作之助の長編小説「青春の逆説」(1941)を読み終えました。
ストーリー等については、巻末の佐藤秀明「《解説》織田作之助の長篇小説」から引用(一部改編)します。
ストーリー等については、巻末の佐藤秀明「《解説》織田作之助の長篇小説」から引用(一部改編)します。
「青春の逆説」は、主人公毛利豹一の母お君の少女時代から始まる。小学校教員の軽部と結婚したお君は豹一を産むが、軽部が肺炎で死ぬと、高利貸しの野瀬安二郎の後妻となる。吝嗇な安二郎は、お君に賃仕事をさせてこき使い、それが豹一をいじけた少年にしてしまう。
中学に進んだ豹一は、劣等感と虚栄心から猛勉強し、また級友の憧れの女学生に接近し交際までする。しかし、豹一には恋愛感情などまるでなかったのである。京都の高等学校に進むと、三高生であることを自慢する生徒を尻目に、寮や学校の規則を破っては堕落していったが、歳も若く晩生(おくて)の豹一は女を誘い出しても恋情は相変わらずなかった。
三高を辞め、見習いの新聞記者となった豹一は、元映画女優の村口多鶴子の取材で彼女の目を引き、多鶴子の危機を救うという偶然も重なって、男女の関係を結んでしまう。(中略)母親の再婚のために性を抑圧していた豹一は、多鶴子に恋をし二週間ほど一緒に暮らすが、多鶴子はそんな生活に焦りを感じ、仕事に復帰しようとして豹一から離れる。
青春の彷徨が友情、仕事、恋愛を通して描かれ、とりわけ豹一の屈折した自意識が彼の青春を決定していくところに、若々しさが感じられる。そして、気まぐれで関係をもったカフェの女給が妊娠したことで、豹一は結婚し父親になる。これが結末で、それまでに起こったいくつもの蹉跌の中には、無稽の希望も見られたが、この凡庸さへの'002;落には人生の冷徹ささえ感じられる。しかし注意深く読むと、この成り行きに、小説は穏やかな光りを添えているのである。結末間際のこの急転換は、凝縮された人生の不思議が窺えるところである。
中学に進んだ豹一は、劣等感と虚栄心から猛勉強し、また級友の憧れの女学生に接近し交際までする。しかし、豹一には恋愛感情などまるでなかったのである。京都の高等学校に進むと、三高生であることを自慢する生徒を尻目に、寮や学校の規則を破っては堕落していったが、歳も若く晩生(おくて)の豹一は女を誘い出しても恋情は相変わらずなかった。
三高を辞め、見習いの新聞記者となった豹一は、元映画女優の村口多鶴子の取材で彼女の目を引き、多鶴子の危機を救うという偶然も重なって、男女の関係を結んでしまう。(中略)母親の再婚のために性を抑圧していた豹一は、多鶴子に恋をし二週間ほど一緒に暮らすが、多鶴子はそんな生活に焦りを感じ、仕事に復帰しようとして豹一から離れる。
青春の彷徨が友情、仕事、恋愛を通して描かれ、とりわけ豹一の屈折した自意識が彼の青春を決定していくところに、若々しさが感じられる。そして、気まぐれで関係をもったカフェの女給が妊娠したことで、豹一は結婚し父親になる。これが結末で、それまでに起こったいくつもの蹉跌の中には、無稽の希望も見られたが、この凡庸さへの'002;落には人生の冷徹ささえ感じられる。しかし注意深く読むと、この成り行きに、小説は穏やかな光りを添えているのである。結末間際のこの急転換は、凝縮された人生の不思議が窺えるところである。
◆主人公・毛利豹一の成功も挫折(こちらの方が圧倒的に多い)もその若さゆえです。劣等感と自尊心の狭間で揺れ動く彼、また偏った考えのまま行動する彼。いつの間にか、彼の姿に昔の自分を重ねていました。
◆新聞社の先輩・土門が豹一に語った言葉がを引用します。当たり前のことですが、気をつけなければいけません。
◆新聞社の先輩・土門が豹一に語った言葉がを引用します。当たり前のことですが、気をつけなければいけません。
「そら良え現象や。ところが、威張る新聞記者は佃煮にするほどいますわい。なるほど、威張ろうと思えば、威張れるがね。しかし威張って良い理由はどこにも無いんだ。たとえば、よく使われる例だが、失業した新聞記者は水をはなれた魚のようにみじめなんだ。してみるとだね、てめえらが威張れたのは、てめえら自身の、――変ないい方だが――人格ではなくて、実は背景になっている新聞のおかげだ。つまり、虎の威を借りている、といっては月並かな。君あれだよ、つまるところ新聞記者という特権を濫用しているんだよ」◆この作品を読み、井上靖の自伝的小説「しろばんば」「夏草冬涛」「北の海」「あすなろ物語」を久々に読んでみようかなと思いました。