Quantcast
Channel: my photo diary
Viewing all articles
Browse latest Browse all 681

太宰治『ヴィヨンの妻』(角川文庫)を読みました。

$
0
0
イメージ 1

今日、太宰治の短編集『ヴィヨンの妻』(角川文庫)を読み終えました。
この短編集には太宰の作家活動の後期(戦後~昭和23年)に書かれた作品が収録されています。できれば「ヴィヨンの妻」は、女性一人称の短編ばかりを集めた『女生徒』に入れてほしかったと思います。

【収録作品】( )内は発表年
パンドラの匣(昭和21年)
 この作品は「『健康道場』と称する或る療養所で病いと闘っている二十歳の男の子から、その親友に宛てた手紙の形式」(「河北新報」連載に際しての作者の言葉より)をとっています。舞台は山の中の結核療養所ですが、暗さはあまり感じさせません。登場人物たちは皆あだ名で呼び合い、患者と看護婦たちが淡い恋心に胸をときめかせます。時には患者同士の喧嘩もありますが、人間としての品性は失いません。
 未来への希望が読み取れる作品です。「パンドラの匣」というタイトルはそんな作者の思いを表しています。以下に、タイトルについて言及した部分を引用します。
 君はギリシャ神話のパンドラの匣という物語をご存じだろう。あけてはならぬ匣をあけたばかりに、病苦、悲哀、嫉妬、貪慾、猜疑、陰険、飢餓、憎悪など、あらゆる不吉の虫が這い出し、空を覆ってぶんぶん飛び廻り、それ以来、人間は永遠に不幸に悶えなければならなくなったが、しかし、その匣の隅に、けし粒ほどの小さい光る石が残っていて、その石に幽かに「希望」という字が書かれていたという話。

トカトントン(昭和22年)
 この作品は、26歳の青年が某作家(太宰)宛てに書いた手紙という形式になっています。この青年は敗戦を機にある幻聴を聞くようになります。物事に感激し奮い立とうとすると、どこからか「トカトントン」という、誰かが金槌で釘を打つ音が幽かに聞こえてくるのです。その音を聞くと、高揚した気分は一瞬のうちに消え、虚脱感に襲われてしまうのです。
 この「トカトントン」という音が何を意味するのか、解釈はいろいろあると思います。しかし、この音がこの作品にリズム感を与え、おもしろみのある作品にしていることは議論の余地がないように思います。

ヴィヨンの妻(昭和22年)
 女性の一人称で書かれた作品です。太宰自身をモデルにしたような詩人・大谷のめちゃくちゃな生活に対し、妻が明るく、そして強く生きる姿に清々しさを感じました。でもこんな女性は現実にはいないし、太宰の願望なのでしょう。
 大谷が馴染みの飲み屋から金を盗んで逃げたため、飲み屋の主人夫婦が大谷の家に乗り込んできます。その時の飲み屋の主人の話がおもしろく、僕も妻と同じように吹き出してしまいました。
 この作品の冒頭部分には3歳になる男の子の成長の遅れと病弱なことが語られていますが、太宰の実子への思いが書かれているのかなと思いました。

眉山(昭和23年)
グッド・バイ(昭和23年)

Viewing all articles
Browse latest Browse all 681

Trending Articles