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『江戸川乱歩短篇集』を読みました。

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今日、『江戸川乱歩短篇集』(岩波文庫)を読み終えました。
『江戸川乱歩傑作選』(新潮文庫)を読み、もう少し乱歩作品を読みたいと思ったので、この『江戸川乱歩短篇集』を購入しました。こちらもベスト集なので、「二銭銅貨」「D坂の殺人事件」「心理試験」「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「鏡地獄」の6作品については、『江戸川乱歩傑作選』と重なっています。
この作品集について、文庫本ブックカバー表紙の解説を引用します。
 大正末期、大震災直後の東京にひとりの異才が登場、卓抜な着想、緻密な構成、巧みな語り口で読者をひきこむ優れた短篇を次々と発表していった。日本文学に探偵小説の分野を開拓し普及させた江戸川乱歩(1894-1965)の、デビュー作「二銭銅貨」をはじめ「心理試験」「押絵と旅する男」など代表作12篇を収録。

【収録作品】
◆二銭銅貨
◆D坂の殺人事件
◆心理試験
白昼夢

◆屋根裏の散歩者
◆人間椅子
火星の運河

お勢登場
 「ここで登場した女主人公が、更らに色々の悪事を働く、その一代の犯罪史を書きつぐつもり」(「探偵小説十年」)だったが、結局その序曲だけで終わってしまった作品という。(千葉俊二による巻末解説「乱歩登場」より)
 お勢の夫・格太郎は息子たちと隠れん坊をしていて、押入れの中にあった長持に隠れます。息子たちがどこかへ行ってしまったので、彼は長持から出ようとしますが、誤って鍵がかかっており、閉じ込められてしまったことに気づきます。このシーン、自分がそうなったらと想像しただけでゾッとします。
◆鏡地獄
木馬は廻る
 主人公は50幾歳のラッパ吹き。彼は妻子との生活を煩わしく思っており、同じ遊園地で働く18歳の娘の存在が彼の唯一の慰めでした。彼女が新しいショールが欲しいと言うと、彼は彼女の関心を引くために買ってあげたいと思いますが、貧しい彼には無理なことでした。そんなある日、彼はふとしたことから100円入りの封筒を手にし、有頂天になります。
 僕は次の展開を想像し、「そんな金を使うと危ない目に遭うぞ!」とドキドキしていましたが、ここで終わり。この作品の末尾に、「作者申す、探偵小説にするつもりのが、中途からそうならなくなって、変なものが出来上がり、申し訳ありません。頁の予定があるので、止むなくこのまま入れてもらいます。」とあります。
 僕としては、主人公に降りかかる惨めな結末は容易に想像できるので、ここまで書けばそれでよしと思います。この一文を読むと、この作者は先の展開を考えながら行き当たりばったりに書いているように思えます。本当かな?
押絵と旅する男
 私は魚津へ蜃気楼を見に出かけた帰り、同じ汽車に乗り合わせた老人から、彼の兄にまつわる不思議な話を聞かされます。
目羅博士の不思議な犯罪
 私(江戸川乱歩)は探偵小説の筋を考えるとき、浅草公園や花やしき、上野の博物館、同じく動物園、隅田川の乗合蒸気、両国の国技館をぶらつことがあります。ある日、私は上野の動物園でルンペン風の青年に出会います。そして、彼は目羅博士にまつわる奇妙な話を語り始めます。
 以下、目羅博士の不思議な犯罪の舞台となる「都会の峡谷」についての描写を引用します。ビルの林立する都会を「コンクリート・ジャングル」などと言いますが、そういう発想はこの頃からあったんですね。
 高いビルディングとビルディングとの間にはさまっている、細い道路。そこは自然の峡谷よりも、ずっと嶮しく、ずっと陰気です。文明の作った幽谷です。科学の作った谷底です。その谷底の道路から見た、両側の六階七階の殺風景なコンクリート建築は、自然の断崖のように、青葉もなく、季節季節の花もなく、目に面白いでこぼこもなく、文字通り斧でたち割った、巨大な鼠色の裂目に過ぎません。見上げる空は帯のように細いのです。日も月も、一日の間にホンの数分間しか、まともには照らないのです。その底からは昼間でも星が見えるくらいです。不思議な冷い風が、絶えず吹きまくっています。

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