今日、バーナード・マラマッドの短編集『魔法の樽』(1958)を読み終えました。これから先、何度も読み返すことになる本だと思います。
『魔法の樽』は『ナチュラル』(1952)、『アシスタント』(1957)についで刊行されたマラマッドの最初の短編集です。彼はこの作品で全米図書賞を受賞し、作家として脚光を浴びることになりました。日本では1970年前後に相次いで3種類の翻訳が刊行されています。邦高忠二訳『魔法の樽』(1968)及び繁尾久訳『魔法のたる』(1970)、加島祥造訳『マラマッド短編集』(1971)です。
僕は新潮文庫の加島祥造訳で読みましたが、初版から40年以上経っているので、新訳が出ることを期待していました。昨年10月、岩波文庫から阿部公彦(まさひこ)氏による新訳が出ていました。ヤッホー! って感じでした。
『魔法の樽』は『ナチュラル』(1952)、『アシスタント』(1957)についで刊行されたマラマッドの最初の短編集です。彼はこの作品で全米図書賞を受賞し、作家として脚光を浴びることになりました。日本では1970年前後に相次いで3種類の翻訳が刊行されています。邦高忠二訳『魔法の樽』(1968)及び繁尾久訳『魔法のたる』(1970)、加島祥造訳『マラマッド短編集』(1971)です。
僕は新潮文庫の加島祥造訳で読みましたが、初版から40年以上経っているので、新訳が出ることを期待していました。昨年10月、岩波文庫から阿部公彦(まさひこ)氏による新訳が出ていました。ヤッホー! って感じでした。
■マラマッドは、1914年ロシア系ユダヤ人の両親の元にニューヨーク・ブルックリンで生まれました。彼の両親は帝政ロシア期のユダヤ人迫害を逃れてアメリカにやってきたのです。彼の両親が移住してきた20世紀初めのブルックリンは、迫害の地から命からがら逃れてきた移民も多くいた地域でした。(この文庫本の表紙写真は1915年に撮影されたもので、まさにこの場所に、1924年、彼の両親が雑貨屋を開いています。)
■マラマッドは、多くの作品で帝政ロシアやナチスによるユダヤ人迫害を逃れてアメリカにやってきた人々を描いています。そして、彼らがアメリカでの貧しい生活から必死にはい上がろうとする姿、あるいは挫折し諦めの境地に入る姿を描き出しています。
■『魔法の樽』収録作品分類(加島祥造訳『マラマッド短編集』の「あとがき」による)
(1)ニューヨークのユダヤ人物
「はじめの七年」「死を悼む人々」「天使レヴィン」「どうか憐れみを」「請求書」「借金」「魔法の樽」
(2)ユダヤ人の登場しないニューヨーク物
「夢にみた彼女」「牢獄」「ある夏の読書」
(3)イタリア物
「『ほら、鍵だ』」「湖の令嬢」「最後のモヒカン族」
■マラマッドは、多くの作品で帝政ロシアやナチスによるユダヤ人迫害を逃れてアメリカにやってきた人々を描いています。そして、彼らがアメリカでの貧しい生活から必死にはい上がろうとする姿、あるいは挫折し諦めの境地に入る姿を描き出しています。
■『魔法の樽』収録作品分類(加島祥造訳『マラマッド短編集』の「あとがき」による)
(1)ニューヨークのユダヤ人物
「はじめの七年」「死を悼む人々」「天使レヴィン」「どうか憐れみを」「請求書」「借金」「魔法の樽」
(2)ユダヤ人の登場しないニューヨーク物
「夢にみた彼女」「牢獄」「ある夏の読書」
(3)イタリア物
「『ほら、鍵だ』」「湖の令嬢」「最後のモヒカン族」
【収録作品】
◆はじめの七年
『アシスタント』の結末を思い起こさせる作品です。靴職人のフェルドは、娘ミリアムには自分たち夫婦のような貧しい生活から抜け出して欲しいと願っています。しかし、ナチスの迫害を逃れ、ポーランドからアメリカにやってきた助手のソベルは、ミリアムにずっと思いを寄せていました。
◆はじめの七年
『アシスタント』の結末を思い起こさせる作品です。靴職人のフェルドは、娘ミリアムには自分たち夫婦のような貧しい生活から抜け出して欲しいと願っています。しかし、ナチスの迫害を逃れ、ポーランドからアメリカにやってきた助手のソベルは、ミリアムにずっと思いを寄せていました。
◆死を悼む人々
独り身で年金暮らしのケスラーは30年前に妻子を捨てましたが、65歳を過ぎた今まで彼らのことを考えたことはありませんでした。そんな彼がアパートの家主と管理人からとても理不尽な仕打ちを受けます。そのことで彼は、自分が妻子にした行為がとても理不尽で取り返しのつかないことだったと気づきます。
人生の終わりに自らの過ちを知った苦しみはいかばかりか、そんな作品だと思います。
独り身で年金暮らしのケスラーは30年前に妻子を捨てましたが、65歳を過ぎた今まで彼らのことを考えたことはありませんでした。そんな彼がアパートの家主と管理人からとても理不尽な仕打ちを受けます。そのことで彼は、自分が妻子にした行為がとても理不尽で取り返しのつかないことだったと気づきます。
人生の終わりに自らの過ちを知った苦しみはいかばかりか、そんな作品だと思います。
◆夢にみた彼女
作家志望の青年ミトカは、同じく作家志望の女性マデレンと手紙のやりとりを始めます。彼はマデレンを彼女の作品から「年の頃はおそらく二十三くらい、細身だがやわらかな肉付きをしていて、顔には知性が浮かんでいる」と想像します。やがて二人は会うことになりますが、彼の目の前に現れたのは中年の地味な女性でした。
似たような設定は映画やテレビドラマでも数多く使われていますが、全然陳腐に感じないのはなぜでしょう? 最後の2段落の意味が(諸説あるようです)よくわかりません。
作家志望の青年ミトカは、同じく作家志望の女性マデレンと手紙のやりとりを始めます。彼はマデレンを彼女の作品から「年の頃はおそらく二十三くらい、細身だがやわらかな肉付きをしていて、顔には知性が浮かんでいる」と想像します。やがて二人は会うことになりますが、彼の目の前に現れたのは中年の地味な女性でした。
似たような設定は映画やテレビドラマでも数多く使われていますが、全然陳腐に感じないのはなぜでしょう? 最後の2段落の意味が(諸説あるようです)よくわかりません。
◆天使レヴィン
仕立屋のマニシェヴィッツは火事で店を失いました。時を同じくして息子は戦死、娘もどこかの田舎者と結婚して彼のもとを去りました。さらに悪いことに、彼はひどい腰痛になり、一日に一時間か二時間ほどしか働けなくなってしまいます。妻も体調を崩し、医者からはほとんど希望がないと告げられます。
そんな彼のもとに自らを天使と名乗るレヴィンが現れます。
仕立屋のマニシェヴィッツは火事で店を失いました。時を同じくして息子は戦死、娘もどこかの田舎者と結婚して彼のもとを去りました。さらに悪いことに、彼はひどい腰痛になり、一日に一時間か二時間ほどしか働けなくなってしまいます。妻も体調を崩し、医者からはほとんど希望がないと告げられます。
そんな彼のもとに自らを天使と名乗るレヴィンが現れます。
◆「ほら、鍵だ」
コロンビア大学でイタリア研究をしている大学院生のカールは、博士論文執筆のために妻子を連れローマを訪れます。イタリア滞在を満喫するはずでしたが、予算にあった適当なアパートが見つからず、部屋探しに奔走します。
やっとのことで部屋が見つかったと思った瞬間、彼は絶望へと突き落とされます。
コロンビア大学でイタリア研究をしている大学院生のカールは、博士論文執筆のために妻子を連れローマを訪れます。イタリア滞在を満喫するはずでしたが、予算にあった適当なアパートが見つからず、部屋探しに奔走します。
やっとのことで部屋が見つかったと思った瞬間、彼は絶望へと突き落とされます。
◆どうか憐れみを
調査員のダヴィドフは元コーヒー豆セールスマンのローゼンのもとを訪ね、彼からエヴァの話を聴きます。彼女の夫はナチスの迫害を逃れてアメリカにやって来たポーランド難民でした。彼女は夫とともに雑貨屋を始めましたが失敗し、失意の中夫は突然倒れて死んでしまいました。彼女は店を立て直そうとしますがうまくいきません。その様子を見かねたローゼンが何度も救いの手を差しのべようとしますが、彼女は頑なに拒絶しました。そこで、ローゼンが最後にとった行動は?
調査員のダヴィドフは元コーヒー豆セールスマンのローゼンのもとを訪ね、彼からエヴァの話を聴きます。彼女の夫はナチスの迫害を逃れてアメリカにやって来たポーランド難民でした。彼女は夫とともに雑貨屋を始めましたが失敗し、失意の中夫は突然倒れて死んでしまいました。彼女は店を立て直そうとしますがうまくいきません。その様子を見かねたローゼンが何度も救いの手を差しのべようとしますが、彼女は頑なに拒絶しました。そこで、ローゼンが最後にとった行動は?
◆牢獄
◆湖の令嬢
北イタリアのマッジョーレ湖が舞台。映像にしたらとても素敵な作品になると思います。謎めいて、官能的で、切なくて。でも、こういう話は昔のアメリカかイタリアの映画で見たような気もします。
この作品は「彼女は石像の中に紛れ、彼が湖から立ちのぼる霞の中をその名を呼びながらいくら探しまわっても、抱きしめることができたのは月光に照らされた石だけだった。」という文章で終わっています。えっ、ここで終わっちゃうの? 僕はやがて霞がとれ、彼が彼女を見つけ出すシーンを想像します。
◆湖の令嬢
北イタリアのマッジョーレ湖が舞台。映像にしたらとても素敵な作品になると思います。謎めいて、官能的で、切なくて。でも、こういう話は昔のアメリカかイタリアの映画で見たような気もします。
この作品は「彼女は石像の中に紛れ、彼が湖から立ちのぼる霞の中をその名を呼びながらいくら探しまわっても、抱きしめることができたのは月光に照らされた石だけだった。」という文章で終わっています。えっ、ここで終わっちゃうの? 僕はやがて霞がとれ、彼が彼女を見つけ出すシーンを想像します。
◆ある夏の読書
◆請求書
◆最後のモヒカン族
ジオットの研究書の下調べのためにイタリアにやってきたフィデルマンは、ローマでサスキンドと名のるユダヤ人難民につきまとわれます。彼はサスキンドから逃れようと別のホテルに移りますが、サスキンドはどこからともなく彼の前に現れ、彼のスーツを譲ってくれと言い出します。
あることがきっかけとなり、今度はフィデルマンがサスキンドを探すはめになります。彼は研究そっちのけでローマ中を探し回り、やがてサスキンドの住居を見つけ出します。最後には彼の方からサスキンドにスーツを差し出すことになりますが、とても不条理で、イライラ。ドキドキが募ります。
この作品のタイトルがなぜ「最後のモヒカン族」なのか、わかりません。
◆請求書
◆最後のモヒカン族
ジオットの研究書の下調べのためにイタリアにやってきたフィデルマンは、ローマでサスキンドと名のるユダヤ人難民につきまとわれます。彼はサスキンドから逃れようと別のホテルに移りますが、サスキンドはどこからともなく彼の前に現れ、彼のスーツを譲ってくれと言い出します。
あることがきっかけとなり、今度はフィデルマンがサスキンドを探すはめになります。彼は研究そっちのけでローマ中を探し回り、やがてサスキンドの住居を見つけ出します。最後には彼の方からサスキンドにスーツを差し出すことになりますが、とても不条理で、イライラ。ドキドキが募ります。
この作品のタイトルがなぜ「最後のモヒカン族」なのか、わかりません。
◆借金
◆魔法の樽
リオはイェシーヴァ大学(ニューヨークにある正統派ユダヤ教の大学)でラビ(ユダヤ教の指導者)になるための勉強をしています。彼は6年間の課程を終え、6月には正式にラビに任命される予定でしたが、「ラビというのは結婚していた方が信者もついてくる」というある人の助言を受け、結婚仲介業者のソルツマンに花嫁候補の紹介を依頼します。
◆魔法の樽
リオはイェシーヴァ大学(ニューヨークにある正統派ユダヤ教の大学)でラビ(ユダヤ教の指導者)になるための勉強をしています。彼は6年間の課程を終え、6月には正式にラビに任命される予定でしたが、「ラビというのは結婚していた方が信者もついてくる」というある人の助言を受け、結婚仲介業者のソルツマンに花嫁候補の紹介を依頼します。