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村上春樹『国境の南、太陽の西』を読みました。(再)

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 今日、村上春樹の長編第7作『国境の南、太陽の西』(92)を読み終えました。(再)
 この作品を読んだのは2008年以来、10年ぶりでした。その時の記事は以下の通りです。
https://blogs.yahoo.co.jp/kazukazu560506i/43038449.html

 今年6~9月、村上春樹の長編小説14作品のうち7作品を読みました。少し間が空いたので、残りの7作品も読んでみることにしました。以下が残りの7作品です。
・『風の歌を聴け』(79)
・『1973年のピンボール』(80)
・『ノルウェイの森』(87)
・『国境の南、太陽の西』(92)
・『スプートニクの恋人』(99)
・『アフターダーク』(04)
・『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(13)

 『国境の南、太陽の西』について、ブックカバー裏表紙の解説を引用します。
 今の僕という存在に何らかの意味を見いだそうとするなら、僕は力の及ぶかぎりその作業を続けていかなくてはならないだろう――たぶん。「ジャズを流す上品なバー」を経営する、絵に描いたように幸せな僕の前にかつて好きだった女性が現われて――。日常に潜む不安をみずみずしく描く話題作。待望の文庫化。

【感想等】
◆この作品には他の村上作品によくあるような超常現象や奇想天外な展開はありません。島本さんの歩んだ人生と現在の生活が謎としてあるくらいです。
 要約すると陳腐な話になってしまいそうですが、僕はこの作品のどこに惹かれるんだろう? 主人公がかつて好きだった女性に再会し、もしかしたら二人は新しい人生を始められるかもしれない、というストーリーに共感を覚えるからでしょうか?
 でも、「国境の南」にも「太陽の西」にも結局は何もない。ここでしっかり生きなさいと言われているようにも思います。

◆ジャズ・バンドが演奏する「スタークロスト・ラヴァーズ」は、悪い星のもとに生まれた恋人たち=ロミオとジュリエットをモチーフにしています。「僕」がこの曲の意味を島本さんに話したことをきっかけに、二人はお互いの気持ちを確認します。ちょっとカッコつけ過ぎだし、甘ったるい。バブル期の雰囲気が出ているように思います。

◆主な登場人物(登場順)
・僕(ハジメ・始)
・島本さん
・大原イズミ
・イズミの従姉
・有紀子
・有紀子の父

◆気になった文章
・プリテンニュアハピーウェニャブルウ
 イティイズンベリハートゥドゥー
 今ではもちろんその意味はわかる。「辛いときには幸せなふりをしよう。それはそんなにむずかしいことではないよ」。まるで彼女がいつも浮かべていたあのチャーミングな微笑みのような歌だ。たしかにそれはひとつの考え方ではある。でも時によってはそれはとてもむずかしいことになる。(P18)

・「オリジナルのカクテルが幾つかあるよ。店の名前と同じで『ロビンズ・ネスト』っていうのがあってそれがいちばん評判がいい。僕が考案したんだ。ラムとウオッカがベースなんだ。口当たりはいいけれど、かなりよくまわる」
「女の子を口説くのによさそうね」
「ねえ島本さん、君にはよくわかってないようだけれど、カクテルという飲み物はだいたいそのために存在しているんだよ」
 彼女は笑った。「じゃあそれをいただくことにするわ」(P130)
 ~

・「なんだっていつかは消えてしまう。こんな店だっていつまで続いているかはわからない。人々の嗜好が少し変化し、経済の流れが少し変われば、今ここにある状況なんてあっという間に消えてしまう。僕はそんな実例を幾つも見てきた。本当に簡単なものだよ。かたちがあるものは、みんないつかは消えてしまう。」(P147-48)
 ~この作品は、1951年1月4日の「僕」の誕生から、(「僕」が36歳の)1987年11月初めに島本さんと再会するまでを、「僕」の回想として描いています。そして、再会した二人の物語が、1987年11月から、 まで展開します。この期間はバブル期(1986年12月~1991年2月)と重なり、「僕」はその時代の成功者として描かれています。「僕」は青山で2軒のジャズ・バーを経営し、4LDKのマンションで妻と2人の娘とともに円満に暮らし、BMWなど2台の外車と別荘を所有しています。
 この引用部分を読むと、「僕」がバブル崩壊を予期していたようにみえますが、この作品全体としては、日本中がバブル景気に浮かれていた時代を反映した作品です。

・「スタークロスト・ラヴァーズ」と島本さんは言った。「それはどういう意味なのかしら?」
「悪い星のもとに生まれた恋人たち。薄幸の恋人たち。英語にはそういう言葉があるんだ。ここではロミオとジュリエットのことだよ。エリントンとストレイホーンはオンタリオのシェイクスピア・フェスティヴァルで演奏するために、この曲を含んだ組曲を作ったんだ。オリジナルの演奏では、ジョニー・ホッジスのアルト・サックスがジュリエットの役を演奏して、ポール・ゴンザルヴェスのテナー・サックスがロミオの役を演奏した」
「悪い星のもとに生まれた恋人たち」と島本さんは言った。「まるでなんだか私たちのために作られた曲みたいじゃない?」
「僕らは恋人なのかな?」
「あなたはそうじゃないと思うの?」
 僕は島本さんの顔を見た。彼女の顔にはもう微笑みは浮かんでいなかった。その瞳の中に微かな輝きのようなものが見えるだけだった。(P233-34)

・「太陽の西にはいったい何があるの?」と僕は訊いた。
 彼女はまた首を振った。「私にはわからない。そこには何もないのかもしれない。あるいは何かがあるのかもしれない。でもとにかく、それは国境の南とは少し違ったところなのよ」P130)

・「(前略)僕という人間には、僕の人生には、何かがぽっかりと欠けているんだ。失われてしまっているんだよ。そしてその部分はいつも飢えて、乾いているんだ。その部分を埋めることは女房にもできないし、子供たちにもできない。それができるのはこの世界に君一人しかいないんだ。君といると、僕はその部分が満たされていくのを感じるんだ。そしてそれが満たされて初めて僕は気がついたんだよ。これまでの長い歳月、どれほど自分が飢えて渇いていたかということにね。僕にはもう二度、そんな世界に戻っていくことはできない」(P249)
 ~浮気男の常套句のように聞こえます。

◆作品中に登場する音楽/ミュージシャン一覧
♫ロッシーニの序曲集、ベートーヴェンの田園交響曲、『ペール・ギュント』、リストのピアノ・コンチェルト
♫ビングクロスビーのクリスマス音楽
♫ナット・キング・コール「プリテンド」「国境の南」
♫シューベルト『冬の旅』
♫「コンコヴァド」

♫「スタークロスト・ラヴァーズ」
♫デューク・エリントン『サッチ・スウィート・ザンダー』
♫「エンブレサブル・ユー」
♫ヘンデルのオルガン・コンチェルト
♫トーキング・ヘッズ「バーニング・ダウン・ザ・ハウス」

♫クリスマス・ソング
♫モーツァルトのクァルテット
♫「犬のおまわりさん」「チューリップ」
♫ヴィヴァルディ/テレマン
♫「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」

◆作品中に登場する車一覧
●BMW320
●赤いジープ・チェロキー
●トヨタ・コロナ
●黒い大きなメルセデス
●サーブ、ジャガー、アルファ・ロメオ

●ブルーのメルセデス260E
●BMW M5


【参考】村上春樹の長編小説&オリジナル短編集
◆長編小説
01『風の歌を聴け』(79)
02『1973年のピンボール』(80)
03『羊をめぐる冒険』(82)
04『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(85)
05『ノルウェイの森』(87)
06『ダンス・ダンス・ダンス』(88)
07『国境の南、太陽の西』(92)
08『ねじまき鳥クロニクル(94、95)
09『スプートニクの恋人』(99)
10『海辺のカフカ』(02)
11『アフターダーク』(04)
12『1Q84』(09、10)
13『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(13)
14『騎士団長殺し』(17)

◆オリジナル短編集
01『中国行きのスロウ・ボート』(83)
02『カンガルー日和』(83)
03『螢・納屋を焼く・その他の短編』(84)
04『回転木馬のデッド・ヒート』(85)
05『パン屋再襲撃』(86)
06『TVピープル』(90)
07『レキシントンの幽霊』(96)
08『神の子どもたちはみな踊る』(00)
09『東京奇譚集』(05)
10『女のいない男たち』(14)

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