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村上春樹『女のいない男たち』を読みました。(再々)

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 今日、村上春樹の短編集『女のいない男たち』(14)を読み終えました。(再々)
 この短編集について、著書による「まえがき」から抜粋して引用します。

◇本書のモチーフはタイトルどおり「女のいない男たち」だ。最初の一作(「ドライブ・マイ・カー」)を書いているあいだから、この言葉は僕の頭になぜかひっかかっていた。何かの曲のメロディーが妙に頭を離れないということがあるが、それと同じように、そのフレーズは僕の頭を離れなかった。そしてその短編を書き終えたときには、この言葉をひとつの柱として、その柱を囲むようなかたちで、一連の短編小説を書いてみたいという気持ちになっていた。そういう意味では「ドライブ・マイ・カー」がこの本の出発点になった。

◇短編小説をまとめて書くときはいつもそうだが、僕にとってもっとも大きな喜びは、いろんな手法、いろんな文体、いろんなシチュエーションを短期間に次々に試していけることにある。ひとつのモチーフを様々な角度から立体的に眺め、追求し、検証し、いろんな人物を、いろんな人称をつかって書くことができる。そういう意味では、この本は音楽でいえば「コンセプト・アルバム」に対応するものになるかもしれない。実際にこれらの作品を書いているあいだ、僕はビートルズの『サージェント・ペパーズ』やビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』のことを緩く念頭に置いていた。そういう不朽の名作と自分の作品集を同列に並べるのはいうまでもなくまことにおこがましいのだけれど、(あくまで)イメージとしては、つもりとしてはそういうものなのだと思って読んでいただけると、作者としてはありがたい。
 僕がこれまでの人生で巡り会ってきた多くのひそやかな柳の木と、しなやか猫たちと、美しい女性たちに感謝したい。そういう温もりと励ましがなければ、僕はまずこの本を書き上げられなかったはずだ。

【収録作品】
ドライブ・マイ・カー

 俳優の家福(かふく)は、亡くなった妻の4人目、そして最後の浮気相手・高槻に近づきます。彼を懲らしめてやろうと考えたからです。
 家福はアントン・チェーホフの『ヴァーニャ伯父』の舞台でヴァーニャ伯父を演じています。この作品を初めて読んだ後、光文社古典新訳文庫『ワーニャ伯父さん/三人姉妹』と、ちくま文庫『チェーホフ短篇集』を購入しましたが、未読です。今回は必ず読もうと思います。

◆主な登場人物(登場順)
・家福
・大場
・渡利みさき
・家福の妻
・高槻

◆気になった文章
・(高槻)「でもどれだけ理解し合っているはずの相手であれ、どれだけ愛している相手であれ、他人の心をそっくり覗き込むなんて、それはできない相談です。そんなことを求めても、自分がつらくなるだけです。しかしそれが自分自身の心であれば、努力さえすれば、努力しただけしっかり覗き込むことはできるはずです。ですから結局のところ僕らがやらなくちゃならないのは、自分の心と上手に正直に折り合いをつけていくことじゃないでしょうか。本当に他人を見たいと望むのなら、自分自身を深くまっすぐ見つめるしかないんです」(P60-61)

・(みさき)「そういうのって、病のようなものなんです、家福さん。考えてどうなるものでもありません。私の父が私たちを捨てていったのも、母親が私をとことん痛めつけたのも、みんな病がやったことです。頭で考えても仕方ありません。こちらでやりくりして、呑み込んで、ただやっていくしかないんです」(P69)

◆作品中に登場する音楽/ミュージシャン
・ベートーヴェンの弦楽四重奏曲
・古いアメリカン・ロック~ビーチ・ボーイズ、ラスカルズ、クリーデンス、テンプテーションズ
・古いジャズのレコード

◆作品中に登場する車
・黄色のサーブ900コンバーティブル
・数え切れないほどのタイヤをつけた大型トレーラー


イエスタデイ

 完璧な関西弁を使いこなす田園調布出身の同級生・木樽からもちかけられた、奇妙な「文化交流」とは。そして16年が過ぎた。
 この作品は、歌詞の改作に関して著作権代理人から「示唆的要望」を受けたそうです。歌詞は訳詩ではなく、まったく無関係な作家による創作でしたが、ビートルズ・サイドとトラブルを起こすのは作家の本意ではないので、思い切って歌詞を大幅に削り、問題が起きないようにできるだけ工夫したそうです。(「まえがき」より)
 「イエスタデイ」の替え歌は、それを歌う木樽の個性とも相まって、この作品にちょっとした雰囲気を与えていたように思います。以下、『文藝春秋』2014年1月号に掲載されたオリジナル作品から替え歌を引用します。

 昨日は
 あしたのおとといで
 おとといのあしたや
 それはまあ
 しゃあないよなあ

 昨日は
 あさってのさきおとといで
 さきおとといのあさってや
 それはまあ
 しゃあないよなあ

 あの子はどこかに
 消えてしもた
 さきおとといのあさってには
 ちゃんとおったのにな

 昨日は
 しあさっての四日前で
 四日前のしあさってや
 それはまあ
 しゃあないよなあ

◆主な登場人物(登場順)
・僕(谷村)
・木樽明義
・栗谷えりか

◆気になった文章
・でも自分が二十歳だった頃を振り返ってみると、思い出せるのは、僕がどこまでもひとりぼっちで孤独だったということだけだ。僕には身体や心を温めてくれる恋人もいなかったし、心を割って話せる友だちもいなかった。日々何をすればいいのかもわからず、思い描ける将来のビジョンもなかった。だいたいにおいて自分の内に深く閉じこもっていた。一週間ほとんど誰ともしゃべらないこともあった。そういう生活が一年ばかり続いた。長い一年間だった。その時期が厳しい冬となって、僕という人間の内側に貴重な年輪を残してくれたのかどうか、そこまでは自分でもよくわからないけれど。(P123)

◆作品中に登場する音楽/ミュージシャン
・ビートルズ「イエスタデイ」
・ジミ・ヘンドリックス
・オブラディ・オブラダ
・ライク・サムワン・イン・ラブ

◆作品中に登場する車
・クリーム色のトヨタ・カローラ
・ひとつ前のモデルの紺色のゴルフ


独立器官

 52歳の美容整形外科医・渡会(とかい)は結婚はしない主義で、結婚を前提とした男性との交際を求めている女性とは一切交際しません。結果、彼がガールフレンドとして選ぶ相手は概ね人妻か、他に「本命」の恋人のいる女性です。要領よく、責任を負わない、気ままな人生を楽しんでいるといった風です。
 ところが、ある時彼は16歳年下の人妻に激しく恋してしまいます。そのため、彼は「自分とはいったいなにものなのだろう」と自問したり、権中納言敦忠の歌に心を動かされるようになります。10代や20代で経験すべきことを52歳になって初めて経験したわけです。しかも、その人妻には別に恋人がいて、さんざんお金を貢いだ挙句裏切られてしまいます。

◆主な登場人物(登場順)
・僕(谷村)
・渡会
・後藤

◆気になった文章
逢ひ見てののちの心にくらぶれば昔はものを思はざりけり(権中納言敦忠)
【参照】https://blogs.yahoo.co.jp/kazukazu560506i/54797878.html

・(後藤)「谷村さん、厚かましいようですが、ひとつ僕からお願いがあります。どうか渡会先生のことをいつまでも覚えていてあげて下さい。先生はどこまでも純粋な心を持った方でした。そして僕は思うのですが、僕らが死んだ人に対してできることといえば、少しでも長くその人のことを記憶しておくくらいです。でもそれは口で言うほど簡単ではありません。誰にでもお願いできることではありません」

・すべての女性には、嘘をつくための特別な独立器官のようなものが生まれつき具わっている、というのが渡会の個人的意見だった。どんな嘘をどこでどのようにつくか、それは人によって少しずつ違う。しかしすべての女性はどこかの時点で必ず嘘をつくし、それも大事なことで嘘をつく。大事でないことでももちろん嘘はつくけれど、それはそれとして、いちばん大事なところで嘘をつくことをためらわない。そしてそのときほとんどの女性は顔色ひとつ、声音(こわね)ひとつ変えない。なぜならそれは彼女ではなく、彼女に具わった独立器官が勝手におこなっていることだからだ。だからこそ嘘をつくことによって、彼女たちの美しい良心が痛んだり、彼女たちの安らかな眠りが損なわれたりするようなことは――特殊な例外を別にすれば――まず起こらない。

◆作品中に登場する音楽/ミュージシャン
・シューベルトやメンデルスゾーンの室内楽
・バリー・ホワイト~真夜中にFM番組でよくかかるような音楽
・マイ・ウェイ

◆作品中に登場する車
・タクシー


シェエラザード

 羽原(はばら)は北関東の地方都市の「ハウス」に身を隠しています。彼を支援する役目を負った女性シェエラザード(「千夜一夜物語」の王妃の名にちなんだ名前)が定期的に彼の部屋を訪れ、食品の補充等をしています。そして、彼と一度性交するたびに、彼女はひとつ興味深い不思議な話をします。
 羽原がなぜ身を隠しているのか? 疑問は解消されませんが、それよりもシェエラザードが語る話にドキドキさせられます。
 羽原の毎日つけている日誌風に書くなら、この作品は「シェエラザード」「やつめうなぎ」「空き巣」と記録することができる。

◆主な登場人物(登場順)
・羽原伸行
・女(シェエラザード)

◆気になった文章
・「やつめうなぎは、とてもやつめうなぎ的なことを考えるのよ。やつめうなぎ的な主題を、やつめうなぎ的な文脈で。でもそれを私たちの言葉に置き換えることはできない。それは水中にあるもののための考えだから。」(P190)

・しかし羽原にとって何よりつらいのは、性行為そのものよりはむしろ、彼女たちと親密な時間を共有することができなくなってしまうことかもしれない。女を失うというのは結局のところそういうことなのだ。現実の中に組み込まれていながら、それでいて現実を無効化してくれる特殊な時間、それが女たちの提供してくれるものだった。そしてシェエラザードは彼にそれをふんだんに、それこそ無尽蔵に与えてくれた。そのことが、またそれをいつか失わなくてはならないであろうことが、彼をおそらくは他の何よりも、哀しい気持ちにさせた。(P221-22)

◆作品中に登場する音楽/ミュージシャン

◆作品中に登場する車
・マツダの青い小型車


木野

 木野は、妻と会社の親しい同僚との浮気現場を目撃すると、すぐさま家を出、会社も辞めます。そして、伯母から引き継いだ喫茶店を作り替え、バー「木野」を始めます。「木野」にはカミタ(神田)や不思議なカップルなど、徐々に客がつき始めますが、ある日猫がいなくなり、店の周辺に蛇が現れるようになります。すると、カミタから「多くのものが欠けてしまったから」店を閉めて、遠くに長い旅に出るように言われます。それは、木野が「正しくないことをしたからではなく、正しいことをしなかったから」とも言われます。
 やがて、木野は正しいことをしなかったことに気づきます。妻の「傷ついたんでしょう、少しくらいは?」という問いに「僕もやはり人間だから、傷つくことは傷つく。少しかたくさんか、程度まではわからないけど」と答えましたが、本当はもっと前に強く傷つくべきだったのです。
 木野は家を出てバーを始める準備やその経営に忙殺され(あるいは、忙殺されようとして)、自分の心ときちんと向き合いませんでした。旅に出て、彼は「おれは傷ついている、それもとても深く」ということにやっと気づきます。

◆主な登場人物(登場順)
・木野
・カミタ(神田)
・客の女
・木野の元妻
・木野の伯母

◆気になった文章

◆作品中に登場する音楽/ミュージシャン
・アート・テイタムのソロ・ピアノのレコード
・「ジェリコの戦い」が入っているコールマン・ホーキンズのLP(Hawkins! Live! At The Village Gate/1962)
・ビリー・ホリデー~「ジョージア・オン・マイ・マインド」の入った古いコロンビアのLP
・エロール・ガーナー「ムーングロウ」、バディー・デフランコ「言い出しかねて」
・テディー・ウィルソン、ヴィック・ディッケンソン、バック・クレイトン~古風なジャズ
・ベン・ウェブスター「マイ・ロマンス」

◆作品中に登場する車


女のいない男たち

 夜中の1時過ぎ、かつての恋人の夫から、彼女が死んだことを告げる電話がかかってきました。

◆主な登場人物(登場順)
・僕
・エム
・エムの夫

◆気になった文章

◆作品中に登場する音楽/ミュージシャン
・クリフォード・ブラウンのソロ
・エレベーター音楽~パーシー・フェイス、マントヴァーニ、レイモン・ルフェーブル、フランク・チャックスフィールド、フランシス・レイ、101ストリングズ、ポール・モーリア、ビリー ・ヴォーン
・デレク・アンド・ドミノズ、オーティス・レディング、ドアーズ
・フランシス・レイ「白い恋人たち」
・パーシー・フェイス「夏の日の恋」
・ヘンリー・マンシーニ「ムーン・リヴァー」
・ゴリラズ、ブラック・アイド・ピーズ
・ジェファーソン・エアプレイン

◆作品中に登場する車



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