今日、スチュアート・ウッズ(1938-)の長編第3作『潜行』(1986、真崎義博訳)を読み終えました。この作品はまた、『警察署長』(1981)から続く、ウィル・リー・シリーズの第3作でもあります。
この作品について、「訳者あとがき」から抜粋して引用します。
この作品について、「訳者あとがき」から抜粋して引用します。
1981年10月28日、スウェーデン領海内で座礁したソ連軍の潜水艦が、漁船によって発見された。
事件が公になったのは、10月29日、スウェーデン国防相グスタフソンの声明によってだった。スウェーデン国防省の発表によると、28日、ソ連海軍の通常潜水艦がスウェーデン領海内で座礁事故を起こし、急浮上するのを漁船が発見した。通報により、軍のヘリコプター、魚雷艇、警備艇が現場へ急行した。現場は、スウェーデン海軍秘密基地に近いカールスクルナ列島の南東岸5.2キロ付近(カールスクルナ海軍基地約15キロの海域)で、偵察作戦行動中に誤って座礁したものと思われる。また、ワルシャワ条約機構軍も救援のため軍艦など10隻を現場へ派遣するなど、緊張感が高まった。事故を起こしたのはカリーニングラード・ソ連海軍基地所属の潜水艦、ウィスキー級137号だった。さらに、現場付近の海域で、正体不明の別な潜水艦1隻が航行しているのも発見された。
座礁した潜水艦は、50年代に配備されたディーゼル機関をもつ〈ウィスキー〉級のもので、この事件の俗称である〈ウィスキー・オン・ザ・ロック〉はここからきている。
この事件は、当然ながら外交的波乱を惹き起こし、11月19日に予定されていたスウェーデン国軍司令官の訪ソが中止された。
座礁現場がスウェーデン海軍の重要基地のすぐ近くということもあり、事件に対するスウェーデンの態度は終始強硬で、対ソ外交関係悪化もやむなしという姿勢が取られた。そして10月29日の夜には、カールスクルナ軍港のアンデルソン参謀長率いる兵士と警官が潜水艦に乗り込み、内部を調査した。
これに対するソ連側の態度は異例ともいえるほど柔軟で、30日夜には駐スウェーデン大使を通じてスウェーデン外務省に陳謝した。
さらに11月2日、ソ連側はソ連外交官2人の立ち会いのもとに、スウェーデン当局による事故艦のグシン艦長(この当事者は、本書にも実名で登場する)への事情聴取に応ずると発表した。
こうした経過をふまえ、5日、スウェーデンのフェルディン首相は記者会見をおこない、座礁したソ連潜水艦を返還すると発表した。さらに、座礁した潜水艦からはウラン238が検出されており、これによって核弾頭を搭載している疑いがきわめて濃い、とソ連を非難した。
これが〈ウィスキー・オン・ザ・ロック〉事件の概要だが、この事実をソ連のスウェーデン侵攻作戦の端緒としてとりこみ、さまざまな肉付けをしてプロットをふくらませてサスペンスを盛り上げていくウッズの力量、筆力はかなりのものではないだろうか? が、若干気になるところがないではない。それは、マジョロフという男の描き方だ。強烈な権力欲、上昇志向、変態的性嗜好、贅沢欲、等々・・・・いささかステレオタイプに過ぎるという印象を持ってしまうのだが、どうだろう?
いずれにしても、ソ連のスウェーデン侵攻というありそうもない計画を、いかにもauthentic瓠覆△蠅修Α砲癖語に仕立て上げてしまう腕は、さすが『警察署長』の作者、と読者を唸らせるものをもっている。さらに付け加えるならば、小刻みな章のたて方とあいまって、テンポもリズムもめりはりのきいた、しかし軽くはないどっしりとした手応えを感じさせてくれる作品だ。これで、ウッズは目の離せない作家になったといえるだろう。
事件が公になったのは、10月29日、スウェーデン国防相グスタフソンの声明によってだった。スウェーデン国防省の発表によると、28日、ソ連海軍の通常潜水艦がスウェーデン領海内で座礁事故を起こし、急浮上するのを漁船が発見した。通報により、軍のヘリコプター、魚雷艇、警備艇が現場へ急行した。現場は、スウェーデン海軍秘密基地に近いカールスクルナ列島の南東岸5.2キロ付近(カールスクルナ海軍基地約15キロの海域)で、偵察作戦行動中に誤って座礁したものと思われる。また、ワルシャワ条約機構軍も救援のため軍艦など10隻を現場へ派遣するなど、緊張感が高まった。事故を起こしたのはカリーニングラード・ソ連海軍基地所属の潜水艦、ウィスキー級137号だった。さらに、現場付近の海域で、正体不明の別な潜水艦1隻が航行しているのも発見された。
座礁した潜水艦は、50年代に配備されたディーゼル機関をもつ〈ウィスキー〉級のもので、この事件の俗称である〈ウィスキー・オン・ザ・ロック〉はここからきている。
この事件は、当然ながら外交的波乱を惹き起こし、11月19日に予定されていたスウェーデン国軍司令官の訪ソが中止された。
座礁現場がスウェーデン海軍の重要基地のすぐ近くということもあり、事件に対するスウェーデンの態度は終始強硬で、対ソ外交関係悪化もやむなしという姿勢が取られた。そして10月29日の夜には、カールスクルナ軍港のアンデルソン参謀長率いる兵士と警官が潜水艦に乗り込み、内部を調査した。
これに対するソ連側の態度は異例ともいえるほど柔軟で、30日夜には駐スウェーデン大使を通じてスウェーデン外務省に陳謝した。
さらに11月2日、ソ連側はソ連外交官2人の立ち会いのもとに、スウェーデン当局による事故艦のグシン艦長(この当事者は、本書にも実名で登場する)への事情聴取に応ずると発表した。
こうした経過をふまえ、5日、スウェーデンのフェルディン首相は記者会見をおこない、座礁したソ連潜水艦を返還すると発表した。さらに、座礁した潜水艦からはウラン238が検出されており、これによって核弾頭を搭載している疑いがきわめて濃い、とソ連を非難した。
これが〈ウィスキー・オン・ザ・ロック〉事件の概要だが、この事実をソ連のスウェーデン侵攻作戦の端緒としてとりこみ、さまざまな肉付けをしてプロットをふくらませてサスペンスを盛り上げていくウッズの力量、筆力はかなりのものではないだろうか? が、若干気になるところがないではない。それは、マジョロフという男の描き方だ。強烈な権力欲、上昇志向、変態的性嗜好、贅沢欲、等々・・・・いささかステレオタイプに過ぎるという印象を持ってしまうのだが、どうだろう?
いずれにしても、ソ連のスウェーデン侵攻というありそうもない計画を、いかにもauthentic瓠覆△蠅修Α砲癖語に仕立て上げてしまう腕は、さすが『警察署長』の作者、と読者を唸らせるものをもっている。さらに付け加えるならば、小刻みな章のたて方とあいまって、テンポもリズムもめりはりのきいた、しかし軽くはないどっしりとした手応えを感じさせてくれる作品だ。これで、ウッズは目の離せない作家になったといえるだろう。
【感想等】
◆この作品は、キャサリン・ルール(CIA情報本部ソヴィエト分析課課長)の物語と、イャーン・ヘルダー(ソ連海軍将校)の物語がパラレル進行する構成になっています。そして、二つの物語が一つになった時、この作品はクライマックスを迎えます。
◆この作品は、キャサリン・ルール(CIA情報本部ソヴィエト分析課課長)の物語と、イャーン・ヘルダー(ソ連海軍将校)の物語がパラレル進行する構成になっています。そして、二つの物語が一つになった時、この作品はクライマックスを迎えます。
◆ウィル・リーは、この作品では主人公キャサリン・ルールの恋人役として登場します。
この作品を読んだことで、ウィル・リー・シリーズの『風に乗って』(83)と『草の根』(89)の間は埋まりましたが、時系列にしたがって読めばよかったなと思います。
この作品を読んだことで、ウィル・リー・シリーズの『風に乗って』(83)と『草の根』(89)の間は埋まりましたが、時系列にしたがって読めばよかったなと思います。
◆主な登場人物(登場順)
〈ソ連〉
・イャーン・ヘルダー
・ヴィクトル・マジョロフ
・トリーナ・ラグーリン
・ミスタ・ジョーンズ
・ヴァレリイ・ソコロフ
・コルチャク
〈ソ連〉
・イャーン・ヘルダー
・ヴィクトル・マジョロフ
・トリーナ・ラグーリン
・ミスタ・ジョーンズ
・ヴァレリイ・ソコロフ
・コルチャク
〈アメリカ〉
・キャサリン・ルール
・アラン・ニクスン
・ベンジャミン・カー
・ウィル・リー
・サイモン・ルール
・マーティン・スミス
・エド・ロウルズ
・ゲオルギー・マラホフ
・ダニイ・バーンズ
・ジム・ギル
・エミーリオ・アーピセラ
・ダグ・ストーン
・チャールズ・モーティマー
・ジェラルド・ボナー
・キャサリン・ルール
・アラン・ニクスン
・ベンジャミン・カー
・ウィル・リー
・サイモン・ルール
・マーティン・スミス
・エド・ロウルズ
・ゲオルギー・マラホフ
・ダニイ・バーンズ
・ジム・ギル
・エミーリオ・アーピセラ
・ダグ・ストーン
・チャールズ・モーティマー
・ジェラルド・ボナー
〈スウェーデン〉
・オスカー・オスカーソン
・スヴェン・カールソン
・ホルムキスト
・ビヨルン・ウェストベルイ
・オスカー・オスカーソン
・スヴェン・カールソン
・ホルムキスト
・ビヨルン・ウェストベルイ
◆作品中に登場する車一覧
・シルヴァーのメルツェデス500SE
・ポルシェ928
・フェラーリ
・ヴォルヴォ
・黄色いブレイザー
・BMW320i
・青いヴォルヴォのステイション・ワゴン
・ジルのリムジン
・シルヴァーのメルツェデス500SE
・ポルシェ928
・フェラーリ
・ヴォルヴォ
・黄色いブレイザー
・BMW320i
・青いヴォルヴォのステイション・ワゴン
・ジルのリムジン
【参考】
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