Quantcast
Channel: my photo diary
Viewing all articles
Browse latest Browse all 681

太宰治「惜別」を読みました。

$
0
0
イメージ 1
新潮文庫『惜別』には、「右大臣実朝」と「惜別」が収録されています。

今日、太宰治の「惜別」(1945)を読み終えました。「惜別」は太宰文学の中期(の後半)に属する作品で、太平洋戦争下で書かれました。(出版は終戦後の1945年9月)
以下、奥野健男(文芸評論家)による巻末解説を引用し、「惜別」が書かれた時代背景や著者の意図などを知る手がかりにしたいと思います。
 太平洋戦争期は日本の文学、そして殆どの文学者にとって苦しい受難の時期であった。軍部を中心とするあらゆる国家権力、治安当局、情報局、言論報国会、右翼団体、そして広範な庶民たちを包んだ熱狂的な愛国の時代風潮に圧迫され、文学者たちは自由な魂と表現とを失い、萎縮した。いや当局や時代風潮に迎合し進んで御用文学を書く作家、さらには自ら狂信的な軍国主義、皇国主義の権化となった文学者も出現する。昨日までの文学仲間も、親しい編集者も信用できなくなった疑心暗鬼の時代である。

 その上、戦争末期になると当局の命令で文芸雑誌は次々廃刊され、国策雑誌に統合されていく。文学者たちの作品を発表する舞台は極度に縮小される。・・・。僅かに残された作品発表の道は、書下ろし単行本で、厳重な許可制ではあったが雑誌にくらべればまだしも検閲の目はゆるかった。この時代是が非でも小説を書き発表せずにいられなかった文学の虫のような執念とファイトのある少数の文学者たちは、余り有名でない出版社からの書下ろし刊行かたちで文学活動を続けた。室生犀星、織田作之助などがその最たるものだが、太宰治はそのかたちで彼の文学を代表する多くの秀作長編を発表していて特に印象的である。昭和16年の「新ハムレット」17年の「正義と微笑」18年の「右大臣実朝」19年の「津軽」「雲雀の声」(出版中止)20年の「新釈諸国噺」「お伽草紙」「惜別」と、ほかの大多数の文学者が発表を断念し、あるいは執筆活動を停止してしまった中で、旺盛の作品を執筆、発表し続けている。「日本文学年表」などを眺めると、太平洋戦争期、特に末期の純文学作品として太宰治の名だけが目立つ。まるでこの時期の日本文学の空白、断絶を太宰治ひとりが埋め、支えているという感をすら受けるのである。

 「惜別」は昭和18年11月招集された大東亜会議の五大宣言を小説化するため昭和18年内閣情報局と文学報国会の依嘱を受けて書下ろした長編である。いわば太宰治にとって、当局の要請に応えて書いた唯一の国策小説であるが、一方太宰治は初版「あとがき」で「しかし、両者からの話が無くても、私は、いつかは書いてみたいと思って、その材料を集め、その構想を久しく案じていた小説である。」と述べている。・・・。太宰としては中国革命の志士であり、危険人物と思われている魯迅を、仙台留学時代を中心にとりあげ、こういう革命家を日本の、しかも東北の純朴な雰囲気の中で描くことこそ、情報局や文学報国会の意図したきわものと違う、真の日中親善、というより人間と人間のつながりの真実ということで、当局の意図を逆手にとり真の文学作品を書いてやろうという野心を抱いたに違いない。情報局へ提出した「『惜別』の意図」なる一文には、「中国の人をいやしめず、また、決して軽薄におだてる事もなく、所謂潔白の独立親和の態度で、若い周樹人を正しくいつくしんで書くつもりであります。現代の中国の若い知識人に読ませて、日本にわれらの理解者ありの感情を抱かしめ、百発の弾丸以上に日支全面和平に効力あらしめんとの意図を有しています。」と、武力による日中打解に反対し、中国の若い知識人に日本の中にも、このように中国理解者がいることを示そうという懸命な意図が、この辛い文章の中にもあらわれている。当時、太宰は「竹青」でもそうであったごとく、シナ人侮蔑の日本の中で、中国との理解を真剣に考えていた少数の人間であり、こういう政治的言動は太宰治の生涯の中で珍しい。

◆周樹人(魯迅)は医学によって民衆を救おうと考え、仙台医学専門学校(東北大学医学部の前身)に入学しました。しかし、日本で孫文らの革命運動に触れ、また日露戦争の勝利に沸く日本の民衆の姿を見て、彼は中国の民衆にいま必要なのは医学よりも精神の改革だと考えるようになります。
◆周樹人の心の変遷が彼の言葉で長広舌で語られますが、それは実は太宰の言葉であって、太宰は日本が明治維新によって近代化を遂げたのは単に西洋科学の導入だけでなく、江戸時代の国学者の精神的啓蒙によるところが大きいと述べたかったのです。こういった日本賛美は戦争中という時代背景ゆえ仕方ないか?

【参考】「右大臣実朝」については、こちらを参照してください。
http://blogs.yahoo.co.jp/kazukazu560506i/52973297.html

Viewing all articles
Browse latest Browse all 681

Trending Articles