今日、太宰治の作品集『お伽草紙』を読み終えました。
この作品集の内容については、以下の通りです。
この作品集の内容については、以下の通りです。
困難な戦争期にあって、深く芸術世界に沈潜することで時代への抵抗の姿勢を堅持し、日本文学の伝統を支えぬいた太宰中期の作品から、古典や民話に取材したものを収める。爛チカチ山瓩覆秒もが知っている昔話のユーモラスな口調を生かしながら、人間宿命の深淵をかいま見させた「お伽草紙」、西鶴に題材を借り、現世に生きる人間の裸の姿を鋭くとらえた「新釈諸国噺」ほか3編。(ブックカバー裏表紙の解説より)
【収録作品】( )内は初出誌等
◆盲人独笑(『新風』昭和15年7月号)
◆盲人独笑(『新風』昭和15年7月号)
◆清貧譚(『新潮』昭和16年1月号)
◆新釈諸国噺(諸雑誌の昭和19年1月号~11月号に5編。のち7編を書き下ろし)
「貧の意地」「大刀」「猿塚」「人魚の海」「破産」「裸川」「義理」「女賊」「赤い太鼓」「粋人」「遊興戒」「吉野山」の12編で構成されています。
井原西鶴の著作を下敷きに、太宰らしい表現で武士や庶民の生き様を描いています。しかし、太宰独自の斬新な解釈があるかどうかは疑問です。ただ「吉野山」は、茶屋遊びをしても女に好かれず、嫌気がさして出家遁世した男から昔の遊び仲間に宛てた手紙という形式で書かれていますが、秀逸です。
「貧の意地」「大刀」「猿塚」「人魚の海」「破産」「裸川」「義理」「女賊」「赤い太鼓」「粋人」「遊興戒」「吉野山」の12編で構成されています。
井原西鶴の著作を下敷きに、太宰らしい表現で武士や庶民の生き様を描いています。しかし、太宰独自の斬新な解釈があるかどうかは疑問です。ただ「吉野山」は、茶屋遊びをしても女に好かれず、嫌気がさして出家遁世した男から昔の遊び仲間に宛てた手紙という形式で書かれていますが、秀逸です。
◆竹青(『大東亜文学』昭和20年1月/『文芸』昭和20年4月号)
◆お伽草紙(昭和20年10月書き下ろし)
防空壕の中、父は5歳の娘に桃太郎やカチカチ山、舌切雀などの絵本を読んで聞かせます。しかし、その時父の胸中にはその絵本とは全く別個の新しい物語が描き出されていたのです。
「瘤取り」
酒飲みで家族でも浮いた存在のお爺さんは鬼に頬の瘤を取ってもらいましたが、金持ちで近所の評判もいいお爺さんは頬の瘤が2つになってしまいました。
この物語に悪人は出てこないのに、不幸な人は出てしまいました。なぜ? 作者は「性格の悲喜劇」と結論づけています。酒飲みのお爺さんは頬の瘤をそれほど気にしていませんでしたが、金持ちのお爺さんは頬の瘤をとても気に病んでいました。
「浦島さん」
浦島太郎は饒舌な亀に導かれ、竜宮城へ行きます。
「カチカチ山」
「カチカチ山の物語に於ける兎は少女、そうしてあの惨めな敗北を喫する狸は、その兎の少女に恋している醜男」という設定です。
以下は、背負った柴に火を付けられて大火傷した狸の独白。この期に及んでの自惚れは滑稽ですが、少し身につまされるところも無きにしも非ずなので、もの悲しい。
防空壕の中、父は5歳の娘に桃太郎やカチカチ山、舌切雀などの絵本を読んで聞かせます。しかし、その時父の胸中にはその絵本とは全く別個の新しい物語が描き出されていたのです。
「瘤取り」
酒飲みで家族でも浮いた存在のお爺さんは鬼に頬の瘤を取ってもらいましたが、金持ちで近所の評判もいいお爺さんは頬の瘤が2つになってしまいました。
この物語に悪人は出てこないのに、不幸な人は出てしまいました。なぜ? 作者は「性格の悲喜劇」と結論づけています。酒飲みのお爺さんは頬の瘤をそれほど気にしていませんでしたが、金持ちのお爺さんは頬の瘤をとても気に病んでいました。
「浦島さん」
浦島太郎は饒舌な亀に導かれ、竜宮城へ行きます。
「カチカチ山」
「カチカチ山の物語に於ける兎は少女、そうしてあの惨めな敗北を喫する狸は、その兎の少女に恋している醜男」という設定です。
以下は、背負った柴に火を付けられて大火傷した狸の独白。この期に及んでの自惚れは滑稽ですが、少し身につまされるところも無きにしも非ずなので、もの悲しい。
ああ、くるしい。いよいよ、おれも死ぬかも知れねえ。思えば、おれほど不仕合せな男は無い。なまなかに男振りが少し佳く生れて来たばかりに、女どもが、かえって遠慮しておれに近寄らない。いったいに、どうも、上品に見える男は損だ。おれを女ぎらいかと思っているのかも知れねえ。なあに、おれだって決して聖人じゃない。女は好きさ。それだのに、女はおれを高邁な理想主義者だと思っているらしく、なかなか誘惑してくれない。こうなればいっそ、大声で叫んで走り狂いたい。おれは女が好きなんだ! あ、いてえ、いてえ。どうも、この火傷やけどというものは始末がわるい。ずきずき痛む。やっと狸汁から逃れたかと思うと、こんどは、わけのわからねえボウボウ山とかいふのに足を踏み込んだのが、運のつきだ。あの山は、つまらねえ山であった。柴がボウボウ燃え上るんだから、ひどい。狸は沈みゆく泥舟の中で兎の悪計にやっと気づきましたが、時すでに遅し。以下はその場面。狸の「惚れたが悪いか」という台詞に対し、兎の「おお、ひどい汗」という台詞はとても冷酷です。そして、あの時の僕も同じだったと、身につまされることがたくさん思い出されました。
ぽかん、ぽかん、と無慈悲の櫂が頭上に降る。狸は夕陽にきらきら輝く湖面に浮きつ沈みつ、 「あいたたた、あいたたた、ひどいじゃないか。おれは、お前にどんな悪い事をしたのだ。惚れたが悪いか。」と言って、ぐっと沈んでそれっきり。 兎は顔を拭いて、 「おお、ひどい汗。」と言った。「舌切雀」