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穂村弘『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』を読みました。

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今日、穂村弘の第三歌集『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』(01)を読み終えました。
この歌集について、文庫本ブックカバーの解説を引用します。
 歌人「ほむほむ」に大量の手紙を送り続ける少女「まみ」。最初は「穂村弘先生」だった宛名はいつのまにか「ほむほむ」に、「金のひつじさん(直毛)」「六等星のみつけ方を教えてくれたひとへ」「編み物童貞ほむへ」「ひょむひょむ」に、そして「ほむほむ、まみの内出血」になり…。「まみ」からの手紙をきっかけに書かれたこの歌集は、妹とウサギを連れて上京してきた「まみ」が歌人に憑依して呟いた祈りであり、近代短歌を支配する「一人称性の人生物語」という磁場への果敢な挑戦だ。タカノ綾のエキセントリックでエロティックな絵とともに贈る、危険で美しい言葉たちのざわめき。

第一歌集『シンジケート』(90)や第二歌集『ドライ ドライ アイス』(92)を読んだあとだから、特に違和感なく読めました。タカノ綾さんの絵は確かにエキセントリックだし、エロティックでした。以下、一読して気になった歌を引用します。

  「手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)」
    目覚めたら息まっしろで、これはもう、ほんかくてきよ、ほんかくてき
    いつかみたうなぎ屋の甕のたれなどを、永遠的なものの例として
    高熱に魘されているゆゆのヨーグルトに手をつけました、ゆるして。
    ほむらさん、はいしゃにいっていませんね。星夜、受話器のなかの囁き
    「汝クロウサギにコインチョコレット与ふる勿れ」と兎は云えり

    妹のゆゆはあの夏まみのなかで法として君臨していたさ
    出来立てのにんにく餃子にポラロイドカメラを向けている熱帯夜
    月よりの風に吹かれるコンタクトレンズを食べた兎を抱いて
    金髪のおまえの辞書の「真実」と「チーズフォンデュ」のラインマーカー
    ボーリングの最高点を云いあって驚きあってねむりにおちる

    整形前夜ノーマ・ジーンが泣きながら兎の尻に挿すアスピリン
    腕組みをして僕たちは見守った暴れまわる朝の脱水機を
    花束のばらの茎がアスパラにそっくりでちょっとショックな、まみより 

  「手紙魔まみ、天国の天気図」
    夜明け前 誰も守らぬ信号が海の手前で瞬いている
    美しい指環は足の親指にぴったりでした、報告おわり
    ホームルーム! ホームルーム! とシマウマの鳴き声がする夜の草原
    ありったけのパジャマを抱えて唄いだすインフルエンザのテーマソングを
    発熱の夜のゆめから溢れだす駅長さんの飼う熱帯魚(スティションマスターズ・グッピィ)

    ハピバスディ・ディア・ターザン・バイ・レインボー・ハイスクール・バトンガールズ
    残酷に恋が終わって、世界ではつけまつげの需要がまたひとつ
    ウエハースを海にひたして囓りつつ指名手配の魂のこと
    ストラップに鎌倉彫のウサギあり こいつはまるでおかきのようだ
    ほむほむの心の中のものたちによろしく。チャオチャオ。まみ(紅しゃけ)

  「手紙魔まみ、アイ・ラヴ・エジソン」
    可能性。ソフトクリーム食べたいわ、ってゆきずりの誰かにねだること
    まみの髪、金髪なのは、みとめます。ウサギを抱いてるのは、みとめます。
    可能性。すべての恋は恋の死へ一直線に墜ちてゆくこと
    「あー、あー、マイク・テスッ、あいしてるあいしてるあいしてるあいしてる」
    美容師の森ひまわりを花に譬えると、ひまわり(譬えてねーよ)

    このばかのかわりにあたしがあやまりますって叫んだ森の動物会議
    氷メロンの山よりふいと顔あげて、ここらで舌をみせたげようか?
    ライブっていうのは「ゆめじゃないよ」ってゆう夢をみる場所なんですね
    真夜中のなっとう巻きは太るってゆゆが囁く、震える声で
    天沼のひかりでこれを書いている きっとあなたはめをとじている

  「手紙魔まみ、完璧な心の平和」
    完璧な心の平和、ドライアイスに指をつけても平気だったよ
    ハロー 夜。ハロー 静かな霜柱。ハロー カップヌードルの海老たち。
    知んないよ昼の世界のことなんか、ウサギの寿命の話はやめて!
    もうずいぶんながいあいだ生きてるの、ばかにしないでくれます。ぷん
    甘い甘いデニッシュパンを死ぬ朝も丘にのぼってたべるのでしょう

    時間望遠鏡を覗けば抱きあって目を閉じているふたりがみえる
    それはそれは愛しあってた脳たちとラベルに書いて飾って欲しい
    いますグに愛さなけルば死ギます。とバラをくわえた新巻鮭が
    両手投げキス、あのこの腕はながいからたいそうそれはきれいでしょうね
    手紙かいてすごくよかったね。ほむがいない世界でなくて。まみよかったですね。

    おやすみ、ほむほむ。LOVE(いままみの中にあるそういう優しいちからの全て)。

  「手紙魔まみ、キモチワルキレイ」
    早く速く生きてるうちに愛という言葉を使ってみたい、焦るわ
    午前四時半の私を抱きしめてくれるドーナツショップがないの
    新婚旅行へゆきましょう、魂のようなかたちのヘリコプターで
    ゴーゴンとメデューサ、どっちがかわいいの? そっちになるわ、みつめてご覧
    ああ、また長女か、いやだなあ。夢の中までも長女はいやでござんす

    目の前に海がひろがるテラスにて花とお刺身のごはんをどうぞ
    リトマス試験紙くわえて抱きあえばきらきらとゆく夜の飛行機
    菜のはなのお花畑にうつ伏せに「わたし、あくま」と悪魔は云った
    つむってもあけてもまるでおんなじのまっくらやみで手紙を書こう
    おやすみなさい。これはおやすみなさいからはじまる真夜中の手紙です

    大切なことをひとりで為し遂げにゆくときのための名前があるの
    赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、きらきらとラインマーカーまみれの聖書
    朝焼けの教会みたいに想いだす初めてピアスをあけた病院

  「手紙魔まみ、うれしい原材料たち」
    このシャツを着ているときはなぜだろういつでも向かい風の気がする
    自転車を漕ぐとき冬がはじまって目の中で雪とかしています
    カカオマス、ホエイパウダー、麦芽糖、ようこそ、うれしい原材料たち
    マフラーがちくちくしない方法を羊に教えてもらう日曜
    あかねさす紫野ゆきロイホゆきチャリンコ・ベルを巡る朝焼け

    暗闇を歩いていってブレイカーあげるのはお父さんの仕事よ
    おばあちゃんのバイバイは変よ、可愛いの、「おいでおいで」のようなバイバイ
    掃除機をかけてこんなに汗をかくわたしはきっと風邪だと思う
    洗濯機の前でぼおっとしていたら手の甲に虫とまって、飛んだ
    星の夜ふたり毛布にくるまって近づいてくるピザの湯気を想う

    なめとって応急処置をしておこう、うなずきあって舌を準備す
    なんだよおぜんぜんなんも食えるとこねえじゃねえかと蟹を怒る
    この手紙よんでるあなたの顔がみえる、横がおと、正面と、みえる

  「手紙魔まみ、みみずばれ」
    こんなにもふたりで空を見上げてる 生きてることがおいのりになる
    甘酒に雪とけてゆく なぜ笑ってるか何度も訊かれる夜に
    こんなの嫌、全ぶ嘘でしょう? こんなの嫌、全ぶ嘘でしょう? 嫌
    タンバリンの鈴鳴り響く(いつか、長い長い旅を、どうですか、まみ?)
    六号室を出てゆく朝に一枚の地図が輝く南の壁に

  「手紙魔まみ、ウエイトレス魂」
    お客様のなかにウエイトレスはいませんか。って非常事態宣言
    お気に入りの帽子を被れば人呼んでアールヌーボー給食当番
    「美」が虫にみえるのことをユミちゃんとミナコの前でいってはだめね
    未明テレホンカード抜き取ることさえも忘れるほどの絶望を見た
    サイダーがリモコン濡らす一瞬の遠い未来のさよならのこと

    外からはぜんぜんわからないでしょう こんなに舌を火傷している
    なれというなら、妹にでも姪にでもハートの9にでもなるけれど
    夜が宇宙とつながりやすいことをさしひいても途方にくれすぎるわね
    なんという無責任なまみなんだろう この世のすべてが愛しいなんて
    いくたびか生まれ変わってあの夏のウエイトレスとして巡り遭う


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