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井上靖『夏草冬濤』を読みました。

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今日、井上靖の『夏草冬濤』(64)を読み終えました。
この作品について、ブックカバー裏表紙の解説を引用します。
 伊豆湯ケ島の小学校を終えた洪作は、ひとり三島の伯母の家に下宿して沼津の中学に通うことになった。洪作は幼時から軍医である父や家族と離れて育ち、どこかのんびりしたところのある自然児だったが、中学の自由な空気を知り、彼の成績はしだいに下がりはじめる。やがて洪作は、上級の不良がかった文学グループと交わるようになり、彼らの知恵や才気、放埒な行動に惹かれていく――。(上巻)

 洪作は四年に進級するが、自由奔放な文学グループと行動を共にするようになってからは成績は下がる一方で、ついに彼は沼津の寺にあずけられる羽目になった。おくてで平凡な少年の前に、急速に未知の世界が開けはじめる。――陽の光輝く海辺の町を舞台に、洪作少年がいかにして青春に目覚めていったかを、ユーモアを交えた爽やかな筆に描き出す。『しろばんば』に続く自伝長編。(下巻)

◆『夏草冬濤』は上下巻で800ページ以上ありますが、会話部分が多く、あっと言う間に読んでしまいました。旧制中学3年の主人公・洪作がさまざまな出会いや出来事、葛藤の中で成長(?)する姿が描かれており、十代の自分を思い出しながら読むことができました。

◆以下は洪作が友人4人と西伊豆旅行に出かけた時の会話です。この作品を語る時、金枝の指摘は的を射ていると思ったので、引用しました。
「洪作は孤独を知らないな」
 と、金枝は言った。
「冗談じゃないよ。俺だって、孤独ぐらい知ってる」
 洪作が言うと、
「いいや、お前は知らんよ。本当はお前が一番孤独を感じていい環境にあるんだ。小さい時から、ずっと両親から離れてひとりで居るだろう。だけど、お前は孤独という気持ちを知らんと思うな」
 金枝は言った。そう言われると、洪作は不服だった。
「そんなことあるもんか」
「いいや、そうだよ。しかし、そこが洪作のいいところだ」
「どうして、いいんだ」
「めそめそしたところはないし、諦めはいいし、友達次第で模範生にもなれるし、不良にもなれる。明るいし、どんな大胆なことだって平気でやってのけるよ。俺たちの仲間ではお前だけ違ってるよ」
 金枝は言った。洪作は褒められたのか、けなされたのか判らなかったが、まあ自分にはそうしたところがあるかも知れぬと思った。(下巻P397-98)

◆井上靖の小説は、現代を舞台とするもの(『猟銃』『闘牛』『氷壁』他)及び自伝的色彩の強いもの(『あすなろ物語』『しろばんば』『夏草冬濤』他)、歴史に取材したもの(『風林火山』『天平の甍』『蒼き狼』他)の概ね三つに分類できます。
 今回、『あすなろ物語』に続いて自伝的作品である『夏草冬濤』を読みましたが、今後は現代物や歴史物なども読んでみるつもりです。また、井上靖は小説だけでなく、詩やエッセイ、紀行など幅広い著作を残しているので、そちらも読んでみたいと思います。
   

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