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小島なお歌集『サリンジャーは死んでしまった』を読みました。

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今日、小島なおの第二歌集『サリンジャーは死んでしまった』(11)を読み終えました。
この歌集について、「あとがき」の一部を引用します。
 本集は、第一歌集『乱反射』に続く、わたしの第二歌集です。
 20歳から24歳まで、2007年から2011年までの作品、307首を収めました。第一歌集から第二歌集刊行までの四年のあいだに、さまざまな出来事がありました。大学を卒業し就職したこと、恋に悩んだこと、祖父が認知症になり介護ホームに入ったこと。とくに祖父が介護ホームに入ったことは、わたしのなかでとても大きな悲しい出来事でした。「死」というものについてかんがえるきっかけになりました。
 タイトルの『サリンジャーは死んでしまった』は、冒頭の一首からとりました。今年の三月に大きな災害が起き、いまだに多くの困難をかかえている方々のことを思うと、「死」という言葉を使うことは、たいへん無神経な行為のように感じられ、最後まで躊躇いたしました。しかしながら、青春小説の歴史に名を残したサリンジャーの死と、学生という青春時代を過ぎたわたしの人生の区切りという意味を込めて、このタイトルにしました。

以下、一読して気になった歌を引用します。

 春風のなかの鳩らが呟けりサリンジャーは死んでしまった
 太陽を迎える準備はできてる菜の花畑に仁王立ちする 
 雨に降られるように音楽きいている目を瞑っても開いても夏
 目も耳も入り口であり出口なる 空もわたしも仰向けの夏
 記念写真の眼差しとおき祖父の顔山茶花の道過ぎつつ思う

 サンダルで水溜まりの上またぐとき昨日の夜の遠雷をきく
 飛翔する鳥のこころはあたらしき画用紙を買うわたしのこころ
 審判のコールが蟬の鳴き声で聞こえないまま試合が終わる
 角ばって入り組んでいて機械めくものは美し電車や工場
 青春と呼ばれる日々はいつのまにか終わってしまい川沿いをゆく

 今日の昼昨日の夜に食べたもの思い出せない祖父の夕暮れ
 街路樹の濡れて明るい冬の夜こんなに楽しくこんなにひとり
 曲がり角きみの来ている気配して曲がりてみればつつじ咲く道
 憂鬱な私は瞼に鳥を飼うもうすぐ春の副都心線
 悲しみをすこし含んだ春が来る祖母のエプロンにある花畑

 母とふたり桜の下を歩みゆく父の癖など話しつつゆく
 歩きつつ祖母の呼吸を聞いておりヒルガオの咲く浜までの道
 きみはきみの領域を持ち日曜の草に座れば背に差すひかり
 ついついとボート漕ぎおり選択を迫られし日の夜の夢にて
 憂鬱な今宵湯船に浸かりつつ足の指だけ並ぶ湯のうえ

 祖父に似る人を何度も見かけたりなんと寂しき帽子のかたち
 横断歩道わたればふいに縞しまの孤独おしよせ靴が脱げたり
 きみとの恋終わりプールに泳ぎおり十メートル地点で悲しみがくる
 出会ったときのきみとは違うきみである八百回にわたる夕焼け
 きみに言う最後のことば結局は思いつかずに頷くばかり

 大根と豚肉の煮物食べており泣きたいときはゆっくりと食む
 マンホールはかの夏に続く通路だと思えばいますぐ降りていこうか
 制服のひるがえる夏われはきみの愛する人であっただろうか
 いままでの罪の数など数えつつプラム食べれば濡れている舌
 夏の雨過ぎる間にきみを憎みふたたび愛す眩しき浪費

 満員の電車に潰され吐き出されほんとうにもう疲れてしまった
 抑えがたき八月の朝の悲しみを家中の抽斗にしまえり
 夕雲よいまこんなにもこの野原美しいのにわれのみが居る
 家族四人気球に乗りし夏の日をときどき誰かが話し始める
 胸のうち緑繁れる庭ありて寂しさに水を撒いたりもする

 なにからも逃げ出したいと嘆きつつあしたの服はもう決めてある
 わが猫の丸く眠れるさま見ると傲慢な思いこみあげてくる
 あかあかと東京タワーの点る夜クロネコヤマトの荷物届けり
 われは空われは陽炎われは川夜ごとの夢に溺るるわれは
 なんとなく社会人めくとりあえずお疲れ様ですとあいさつをして

 突然に麒麟を見たくなる朝もわれは会社に行かねばならぬ
 台風や稲妻や虹を待つこころどれも豊かで孤独なこころ
 もうきみに愛されることなくなりて芝生の青に寝転んでいる
 いつからか雲を数える癖がつき鰯雲ならぜんぶでひとつ
 二回目の『ノルウェイの森』読み終えていままでで一番きみを想えり

 忘れないことは悪くはないだろう真夏が似合うあなたであった
 雲見ればわがうちに雲生まれたりその雲がいまきみに会いにゆく
 森にきて夕立を待つこころとは初めてきみに逢いし日のこころ
 芹雑炊の芹の苦さで会社へと向かう気持ちを整えている
 眠っても眠ってもまだ足りなくてからだは大き巻貝である

 青麦の香のきみの背を唐突に蹴りたしのちに強く抱きたし
 すぐ人に頼るいもうと六月の開かれた窓のように在りたり
 パソコンで業務フロー図描いているわが胸のうちの枝のぐにゃぐにゃ
 悲しみをどうしようもなく持て余し遠い嵐に髪は騒立つ


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