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阿木津英歌集『黄鳥 1992~2014』を読みました。

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 今日、阿木津英の第六歌集『黄鳥(くわうてう) 1992~2014』(2014)を読み終えました。
 この歌集について、著者による「あとがき」を一部引用します。
 本歌集『黄鳥(くわうてう) 1992~2014』は、『紫木蓮まで・風舌』『天の鴉片』『白微光』『宇宙舞踏』『巌のちから』につづくわたしの第六歌集である。初出で言えば1992年からおおよそ1999年まで、『宇宙舞踏』と『巌のちから』の間の作品となるが、わたしはこの集を、あたかも画室に積み重ねたキャンバスを奥から引きだしてきて新たに筆を加え完成させていくかのように作った。「1992~2014」は、したがって制作年間をしめす。1992年から99年にかけて得た構想を、10年ばかり寝かせて澱を沈め、この数年の間に精製したともいえよう。歌集にも、このような制作の仕方があってよいのではないか。

 以下、一読して気になった歌を引用します。
  
乗り換への連絡通路黴くさき地下吹くかぜに吹かれてあゆむ
とことはに巡るがごとくたそがれの大歩道橋渡りゆくひと
冷凍のししやもほどけて腹に血のにじみ出でたる六尾は皿に
山越えてさしのぼり来る朝の日を浴(ゆあ)むひとときこの岩棚に
相逼(せま)るさがしき谷にうぐひすの声はひびきて天にしのぼる ※さがし=けわしい、の意

幾山をへだてにこころ護られて清水したたるしづく聴きけむ
大甕に群れ立つ蓮のくれなゐのつぼみを一つ両掌につつむ
胸のべのもやもやを手にかき破り掴み出だせり翅あるものを
指のさき触れゆくたのし銀(しろがね)のしづく聚(あつ)むる葉蜘蛛の網に
天頂に青をのこして暮れそめぬベンチに凭れ仰ぎてあれば

くれなゐのリネンの布を梳くかぜをわが胸もとに覚えつつゆく
枇杷落ちて潰れたるあり温熱をつたふるゆうべのあすふぁると路
夕暗き路面のほてり踏みてゆくわが額(ぬか)のべに汗にじみつつ
フロアーの張り出しガラスのなかにして謐(しず)かに立てる竹(bamboo)の群
目を上げてふとくらがりにつやつやし柿のお尻を叩いて過ぎぬ

荒波の置き去りゆきしなぎさべの石蓴(あをさ)かぐはし日に乾きつつ
春の日の堤防の縁に腰おろす海の民びと老いたるひとは
ウォークマン装着をせし耳ふたつ鎧ひて駅の歩廊をあるく
地下壁の広告見れば蛍光に透く青き波。――青は慰め
眠りたがるたましひをわがひきづり出す拱廊(アーケード)より雨降る中庭(パティオ)へ

宙(おほぞら)の力はめぐりつつここに沈丁花のしろ精(せい)のつよき香
路ひとつ曲がりたるとき夕冷ゆる赤きひかりをまともに浴びる
こぶし咲くその木のもとに石二つ平たきは犬にまろきは父に
むらさきの遠阿蘇の膚ひき入れて野のうへの川ひとすぢのいろ
花わかく香のいまだ無き水仙の鉢抱きあげて卓上におく

わがおもて近づけゆきて水仙の香をむさぼれり夜の灯のもと
冬木立あかるき苑をめぐりつつわが生まれ日は暮れゆかむとす
スタンドを点せる床(とこ)に風邪の咳出づる体の草臥れてをる
横たはるわが胸のべに添ふ猫の尻尾(しつぽ)はたくを手すさびにせり
窓の外は降る梅雨のあめ胡座居のひだりの膝に猫とまらせて

伐り口に楚(すはゑ)の枝の噴き出でて垂りてぞ揺らぐ餝(かざり)のごとく ※すはゑ(すわえ)=木の枝や幹から細くのびた若い小枝
太枝を高くひろげてこずゑの葉そらに垂れたり。汝(なれ)、ゑんじゆの木
路のうへ木陰に立てりわがうちに星の破片(くだけ)のかがやきてある
熱もたぬ夕赤ひかりしたたれり馬刀葉椎(まてばしひ)のしみらの葉群
さいかちの赤き枯莢行く道に拾ひあぐればふくらみ五つ

空青きひかりに眼(まなこ)を痛ましむ諸びとあそぶ芝生は遠く
やはらかき日ざしぬくもる石塀に凭れてしばし憩はなわれは
立ちあがり湯しづくをする肉の身は翌檜(ひば)のあぶらの香につつまれぬ
夜の灯にあぎりもあらずむらさきの花大根の四ひらを聴けば
夏木々の青きさゆらぎ眼をひらき臥してをりけり猫どもの如

その郷のさつま芋来つむらさきの濃きさつま芋よく洗はれて
躓くがごとくにまぶた熱(ほと)りくる寝入らむとする暗きふとんに ※躓く=つまずく
ブロック塀蔽ひつくせる蔦の葉の葉ごとの影のゆたけくおもし
建築群梳きつつとどくゆふひかり片頬に触るわれ在りにけり
都市の気に馴致されたるたましひの群とぞいはむ雑鬧をゆく ※馴致=じゅんち、雑鬧=ざっとう

拾ひ来て机に置けり枯れからぶ皀莢(さいかち)赤実よく鳴る莢を ※皀莢=マメ科の落葉高木
憂ひはも水のごとくにひろがりぬへやの窓なる欅の芽吹き
青あをと桐の葉重なり合ふそらを仰ぎつつゆく小路のそらを
舟に居て堀端見あぐ茄子黒き実を垂りたると里芋の葉と
背戸ごとの汲水場(くみづ)の段(きだ)に桶洗ひ菜を洗ひけむ言(こと)かはしつつ

タデ科またキク科の秋のくさのはな瓶に挿したり曇れる午後に
空窄(せま)くそばだつ壁に水けぶり吹きなびきつつ滝の水落つ ※そばだつ=たかくそびえる、の意
湖の岸べゆきつつ中天に半月球の浮かぶをあふぐ
雪をつむ椿のはなへ羽叩(はた)きては嘴(くちばし)を差す頻りのうごき
一枝を壜に挿したるくちなしは白を重ねてゆたけき翳り

日の当たるコンクリートの溝蓋を窓のべに立ちしばし見下ろす
繁りたる木したを潜りゆく膚に椎の花の香触れつつながれ
渦白く巻くくちなしのはな一つ選びて鼻をさしよせにけり
蒸し暑き網戸より風ふくらみ来蕊ひらきたる百合の香のせて
板床に午臥しなせるうつし身は窓の泡立つ蝉を聴きつつ

夏の照りおとろへむとすかぐはしもゑんじゆ豆花降り来る通り
紅のさざ波をうつ芍薬の培はれたるもののゆたけさ


【感想等】


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