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穂村弘の歌集を読みました。(再)

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 穂村弘の第一歌集『シンジケート』(1990)と第二歌集『ドライ ドライ アイス』(1992)、第三歌集『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』(2001)をまとめ読みしました。
 以下、一読して気になった歌を引用します。

イメージ 1
第一歌集『シンジケート』(1990)

〈1〉
風の夜初めて火をみる猫の目の君がかぶりを振る十二月
フーガさえぎってうしろより抱けば黒鍵に指紋光る三月
泣きながら試験管振れば紫の水透明に変わる六月
限りなく音よ狂えと朝凪の光に音叉投げる七月
プードルの首根っ子押さえてトリミング種痘の痕なき肩よ八月

置き去りにされた眼鏡が砂浜で光の束をみている九月
錆びてゆく廃車の山のミラーたちいっせいに空映せ十月
ゼロックスの光にふたり染まりおり降誕うたうキャロルの楽譜
体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ
抱き寄せる腕に背きて月光の中に丸まる水銀のごと

「猫投げるくらいがなによ本気だして怒りゃハミガキしぼりきるわよ」
新品の目覚めふたりで手に入れる ミー ターザン ユー ジェーン
「みえるものが真実なのよ黄緑の鳩を時計が吐きだす夜も」
ケーキ食べ終えたフォークに銀紙を巻きつつ語るクーリエ理論
水滴のしたたる音にくちびるを探れば囓じるおきているのか

「酔ってるの?あたしが誰かわかってる?」「ブーフーウーのウーじゃないかな」
マネキンのポーズ動かすつかのまに姿うしなう昼の三日月
君がまぶたけいれんせりと告げる時谷の紅葉最も深し
許せない自分に気づく手に受けたリキッドソープのうすみどりみて
バラの棘折りつつ告げる偽りの時刻信じて眠り続けろ

ワイパーをグニュグニュに折り曲げたればグニュグニュのまま動くワイパー
ぶら下がる受話器に向けてぶちまけたげろの内容叫び続ける

〈2〉
月よりも苦しき予感ふいに満ち踊り場にとり落とす鍵束
ねむりながら笑うおまえの好物は天使のちんこみたいなマカロニ
生まれたてのミルクの膜に祝福の砂糖を 弱い奴は悪い奴
ハーブティーにハーブ煮えつつ春の夜の嘘つきはどらえもんのはじまり
サバンナの象のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい

「前世は鹿です」なんて嘘をためらわぬおまえと踊ってみたい
愚かなかみなりみたいに愛してやるよジンジャエールに痺れた舌で
彗星をつかんだからさマネキンが左手首を失くした理由は
ばらまいてしまった砂糖は火の匂い 善は急げ 悪はもっと急げ
花びらに洗われながら泣いている人にはトローチの口移し

春を病み笛で呼びだす金色のマグマ大使に「葛湯つくって」
人はこんなに途方に暮れてよいものだろうか シャンパン色の熊
鳥の雛とべないほどの風の朝 泣くのは馬鹿だからにちがいない
「吼え狂うキングコングのてのひらで星の匂いを感じていたよ」
「自転車のサドルを高く上げるのが夏をむかえる準備のすべて」

恋のいたみの先触れははつなつのバナナ折りとる響きのなかに
積乱と呼ばれし雲よ 錆色のくさり離してブランコに立つ
真夜中の大観覧車にめざめればいましも月にせまる頂点

〈3〉
秋になれば秋が好きよと爪先でしずかにト音記号を描く
秋の始まりは動物病院の看護婦(ナース)とグレートデンのくちづけ
プルトップうろこのように散る床に目覚めるとても冷たい肩で
ベーカリーのパンばさみ鳴れ真実の恋はすなわち質より量と
くちうつしのホールズ光る地下鉄の十色使いの路線図の前

何ひとつ、何ひとつ学ばなかったおまえに遙かな象のシャワーを
糊色の空ゆれやまず枝先に水を包んで光る柿の実
雨の中でシーソーに乗ろう把手まであおく塗られたあのシーソーに
嘘をつきとおしたままでねむる夜は鳥のかたちのろうそくに火を
「まだ好き?」とふいに尋ねる滑り台につもった雪の色をみつめて

ジョン・ライドンに敬礼を 小便小僧のひたいに角(つの)生れし朝
朝の陽にまみれてみえなくなりそうなおまえを足で起こす日曜
「許さない」と瞳(め)が笑ってるその前にゆれながら運ばれてくるゼリー
終バスにふたりは眠る紫の<降りますランプ>に取り囲まれて
薬指くわえて手袋脱ぎ捨てん傷つくことも愚かさのうち

手はつながずにみるはるのゆきのなか今日で最後のアシカの芸を
声がでないおまえのためにミニチュアの救急車が運ぶ浅田あめ
金色のコーンの山を胸の前に捧げて戻るサラダバーより
エイプリルフールには許されるものありき セロリで組みたてし馬
「鮫はオルガンの音が好きなの知っていた?」五時間泣いた後におまえは

イースターの卵をみせるニットから頭がでないともがくおまえに
「靴ひもの結び方まで嫌いよ」と大きな熊の星座の下で
査定0の車に乗って海へゆく誘拐犯と少女のように
まっ青な蛸が欲しくてシュノーケル咬めば泡・泡・泡に抱かれる


イメージ 2
第二歌集『ドライ ドライ アイス』(1992)

〈機
朝の鳥がさえずる前に胸をひらけシャツのボタンをすべて飛ばして
シャボンまみれの猫が逃げだす午下がり永遠なんてどこにも無いさ
ガードレール跨(また)いだままのくちづけは星が瞬くすきを狙って
キスに眼を閉じないなんてまさかおまえ天使に魂を売ったのか?
夜のテトラポッドを跳べば「口のなか切っているでしょ? 地の味がした」

水銀灯ひとつひとつに一羽づつ鳥が眠っている夜明け前

〈供
真夜中のガソリンスタンドの鳥籠の中で羽搏きながら「オハヨー」
水たまりに漏れたオイルが描きだす三色だけの虹を跨いで
明日晴れたら動物園へ出かけよう虎がおしっこするとこを見に

〈掘
「フレミングの左手の法則憶えてる?」「キスする前にまず手を握れ」
金色の蝙蝠だけが知っているはずの秘密をどうして君が?
鉄棒の上に座って口喧嘩 くるんとぶら下がって口づけ
ぼろぼろの地図・磁石・水・不可能の文字のない辞書・蜜入り林檎

〈検
ボンネットを流れる雲よ 首都高の回数券でキスも買えそう
天使にはできないことをした後で音を重ねて引くプルリング
「人類の恋愛史上かつてないほどダーティーな反則じゃない?」

〈后
噴き出したウインドウオッシャー一瞬で凍るトナカイの首のかたちに
もうひとつKiss おもいだせ朝の星がそらにとけてゆくそのスピードを
鳩を追いかけ回したり声あげて泣いてもいいのは五才までだぞ

〈此
叫びながら目醒める夜の心臓は鳩時計から飛びだした鳩

〈察
「その甘い考え好きよほらみてよ今夜の月はものすごいでぶ」
お遊戯がおぼえられない僕のため嘶くだけでいい馬の役

〈次
恋をするかわりに行こう巣のなかにつばめが集めたものを覗きに
「影踏みは月夜の遊び? 月の下で影を踏まれた人どうなるの?」

〈勝
忘れたいことを忘れろアルファベットクッキー池のアヒルに投げて
愚か者・オブ・ザ・イヤーに輝いた俺の帽子が飛ばされて 海へ


イメージ 3
第三歌集『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』(2001)

「手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)」
目覚めたら息まっしろで、これはもう、ほんかくてきよ、ほんかくてき
いつかみたうなぎ屋の甕のたれなどを、永遠的なものの例として
それはまみ初めてみるものだったけどわかったの、そう、エスカルゴ掴み
恋人のあくび涙のうつくしいうつくしい夜は朝は巡りぬ
高熱に魘されているゆゆのヨーグルトに手をつけました、ゆるして。

妹のゆゆはあの夏まみのなかで法として君臨していたさ
出来立てのにんにく餃子にポラロイドカメラを向けている熱帯夜
ボーリングの最高点を云いあって驚きあってねむりにおちる
腕組みをして僕たちは見守った暴れまわる朝の脱水機を
花束のばらの茎がアスパラにそっくりでちょっとショックな、まみより

「手紙魔まみ、天国の天気図」
いもうとをやめてあなたのともだちになるわって頬はさんでくれる
ローズヒップを「ばらのおしり」とおもってた 兎が齧ってしまったおしり
発熱の夜のゆめから溢れだす駅長さんの飼う熱帯魚(スティションマスターズ・グッピィ)
残酷に恋が終わって、世界ではつけまつげの需要がまたひとつ
ストラップに鎌倉彫のウサギあり、こいつはまるでおかきのようだ

「手紙魔まみ、アイ・ラブ・エジソン」
まみの白い机は夢にあらわれて「可能性」と名乗った。アイム・ポシビリティ
可能性。すべての恋は恋の死へ一直線に墜ちてゆくこと
ライヴっていうのは「ゆめじゃないよ」ってゆう夢をみる場所なんですね

「手紙魔まみ、完璧な心の平和」
ハロー 夜。ハロー 静かな霜柱。ハロー カップヌードルのえびたち。
もうずいぶんながいあいだ生きてるの、ばかにしないでくれます。ぷん
甘い甘いデニッシュパンを死ぬ朝も丘にのぼってたべるのでしょう
時間望遠鏡を覗けば抱きあって目を閉じているふたりがみえる
いますグに愛さなけルば死ギます。とバラをくわえた新巻鮭が

「手紙魔まみ、キモチワルキレイ」
東京のカタツムリってでっかくて、渦、キモチワルキレイ 熱帯!
午前四時半の私を抱きしめてくれるドーナツショップがないの
新婚旅行へゆきましょう、魂のようなかたちのヘリコプターで
のぞきこむだけで誰もが引き返すまみの心のみずうみのこと
ああ、また長女か、いやだなあ。夢の中までも長女はいやでござんす

目の前に海がひろがるテラスにて花とお刺身のごはんをどうぞ
朝焼けの教会みたいに想いだす初めてピアスをあけた病院

「手紙魔まみ、うれしい原材料たち」
このシャツを着ているときはなぜだろういつでも向かい風の気がする
カカオマス、ホエイパウダー、麦芽糖、ようこそ、うれしい原材料たち
マフラーがちくちくしない方法を羊に教えてもらう日曜
あかねさす紫野ゆきロイホゆきチャリンコ・ベルを巡る朝焼け
掃除機をかけてこんなに汗をかくわたしはきっと風邪だと思う

その先はドーナッツ、その先はドーナッツ、虫歯のひとは立入禁止
星の夜ふたり毛布にくるまって近づいてくるピザの湯気を想う
なんだよおぜんぜんなんも食えるとこねえじゃねえかと蟹を怒る

「手紙魔まみ、みみずばれ」
こんなにもふたりで空を見上げてる 生きてることがおいのりになる
甘酒に雪とけてゆく なぜ笑ってるか何度も訊かれる夜に
こんなの嫌、全ぶ嘘でしょう? こんなの嫌、全ぶ嘘でしょう? 嫌
真夜中か夜明けかわからない空に薔薇線らしきこのシルエット
解放せよ、タンバリンを飾る鈴。解放せよ、果たされぬ約束。

六号室を出てゆく朝に一枚の地図が輝く南の壁に

「手紙魔まみ、ウエイトレス魂」
コースター、グラス、ストロー、ガムシロップ、ミルク、伝票、抱えてあゆめ
「美」が虫にみえるのことをユミちゃんとミナコの前でいってはだめね
未明テレホンカード抜き取ることさえも忘れるほどの絶望を見た
サイダーがリモコン濡らす一瞬の遠い未来のさよならのこと
外からはぜんぜんわからないでしょう こんなに舌を火傷している

わからない比べられないでもたぶんすごく寒くて死ぬひとみたい
夜が宇宙とつながりやすいことをさしひいても途方にくれすぎるわね
「速達」のはんこを司っている女神がトイレでうたっています
なんという無責任なまみなんだろう この世のすべてが愛しいなんて
天沼のひかりを浴びて想いだすさくらでんぶの賞味期限を

一九八〇年から今までが範囲の時間かくれんぼです
いくたびか生まれ変わってあの夏のウエイトレスとして巡り遭う
夢の中では、光ることと喋ることはおなじこと。お会いしましょう

【参考】 過去の記事
『シンジケート』
https://blogs.yahoo.co.jp/kazukazu560506i/55754571.html
『ドライ ドライ アイス』
https://blogs.yahoo.co.jp/kazukazu560506i/55767022.html?type=folderlist
『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』
https://blogs.yahoo.co.jp/kazukazu560506i/55773207.html?type=folderlist

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