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熊谷達也『リアスの子』を読みました。

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 今日、熊谷達也の『リアスの子』(13)を読み終えました。
 この作品について、ブックカバー裏表紙の解説を引用します。
 東北の港町・仙河海(せんがうみ)市の中学校で教師を勤める和也。担任するクラスに転校してきた早坂希(のぞみ)は、問題を抱える少女だった。朝帰りの噂を聞いた和也が早朝、様子を見に行くと、希のジョギングする姿が。和也は、顧問を務める陸上部への入部を希に勧めるが――。多感な中学生と若き教師の心温まる物語。東日本大震災以降、仙河海市を舞台にした著書の先駆けとなった作品。

【感想等】
◆主人公・岩渕和也は仙河海中学校に勤務する31歳の数学科教諭で、3年担任と陸上部顧問、生徒指導部生徒会チーフを担当しています。
 作家は中学校教員の経験があり、教員の仕事をよく理解していると思います。教員の仕事は授業だけでなく、クラス担任や部活動顧問、さらに校務分掌など、多岐にわたっています。そして、生徒との関わりがどれだけ教員の心の在り方に影響を与えるか、また部活動の指導がどれだけ教員の時間を奪っているか、わかりやすく述べられています。

◆川崎の中学校から転校してきた女子生徒・早坂希が主人公を大いに悩ませます。教員になって7年目、若く経験も浅い主人公にとって、希のような生徒を担任するのは超難問でした。
 和也は一度失敗しますが、自分の非を認め、生徒に真摯に向き合います。これは簡単なようで、とても難しいことです。教員には、生徒に対して間違ったことをしたり、言ってはいけないという変なプライドがあります。また、教員間でも見栄のようなものがありますから。
 和也が希から「これじゃあ、テレビかなんかの学園ドラマみたいじゃん」「先生、熱血教師が出てくる学園ドラマとか、見すぎなんじゃないの?」と言われるシーン、好きです。

◆和也は、仙河海中学校に新任教諭として赴任した桐生直美を見て驚きます。彼女はかつて好きだった女性だったからです。この作品では僕の期待に反し、彼女との関係が発展することはありませんでした。
 『七夕しぐれ』(06)に小学校時代、『モラトリアムな季節』(10)に予備校時代の和也と直美が描かれているので、近いうちに読んでみようと思います。

◆この作品には『微睡みの海』(14)の主人公・昆野笑子の名前が出てきます。和也ら教員の話題に上る、優秀だけど、ちょっと精神的に心配な生徒として。また、『微睡みの海』で笑子の恋人(愛人)として登場する菅原貴之も和也の同僚として描かれています。

◆この作品の舞台となっている「仙河海市」は、著者がかつて中学校教員として3年間暮らした宮城県気仙沼市をモデルにしています。そして、著者はこの作品を出発点として、今後も仙河海市を舞台にした物語を書き続けると述べています。
 『リアスの子』の舞台となっている「仙河海市」は、言うまでもなく、わたしが教え子たちと3年間
暮らした(彼らが入学してから卒業するまで、持ち上がりで3年間、担任をさせてもらった)気仙沼市がモデルである。わたしが勤めていた中学校の学区の半分は津波で流され、瓦礫が撤去された今は、荒涼とした更地となっている。
 そこで生まれ育った教え子たちは、現在、30代後半の年齢を迎えている。どんな街を新たにつくっていくのか、これからの街づくりの中心になっていく若者たちだ。
 その彼らの営みを見ていたいと思った。可能なら、彼らと一緒に何かをつくっていきたいと願った。そう願った時に、唯一わたしにできることは、仙河海市の物語を書き始めることだった。その最初の営みが『リアスの子』であった。この物語を出発点として、仙河海市というリアスの入り江に抱かれた港町の肌触りを、しばらくは描き続けたいと思うん。(文庫版あとがき「唯一、わたしにできること」より)

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