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『続々 小池光歌集』を読みました。

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 今日、現代短歌文庫『続々 小池光歌集』(08)を読み終えました。
 この歌集は概ね以下のような内容です。
◆歌集
・第七歌集「時のめぐりに」(04)全篇
・第六歌集「滴滴集」(04)全篇
◆エッセイ
・自伝風エッセイ 昔話
・大人の道草
◆小池光年譜

 以下、一読して気になった歌を引用します。
◇時のめぐりに
三春駒の尻つぽを抜きて叱られしより五十年ばかり過ぎしや
わが毛髪おどろくばかりほそくなり春風(しゆんぷう)にうち靡(なび)きさへする
顔面を覆ふマスクにおおはれて朝のホームに竝(なら)ぶ無名者
ドア閉める音はしばしば言葉より雄弁にひとのこころを伝ふ
おしぼりで顔をふくことなんでわるい花は散る散る人の世は砂嵐

くひこみて抜けなくなりし包丁がカボチャの上にいかんともし難し
同族をせつせつ恋ふる猫のこゑかなしみの音(ね)の高まりてゆく
愉快なる虚言を語ること勿れ 不愉快なる真実をまた語るな
人は独りその善業(ぜんごふ)の果実をたのしみ独りその悪業(あくごふ)の罰に苦しむ
一夜(いちや)にて水の張られし田おもてにとぶ山鳥のかげはひびきて

山麓にしろい木の花なんといふ五裂のはなを手帳にはさむ ※五裂=いつさき
自転車の鞍のうへにも落ちこぼれ棕櫚の黄土(わうど)の花のかたまり
あぢさゐは毬(まり)のへりから咲きそめて藍色あはしことしの花ぞ
いちれつに咲きならびしてクレマチス竹の添木をのぼるむらさき
わが庭のノウゼンカズラ三年目満を持したるがごと花を噴(ふ)く

人間ができるまで十七年か七十年かは人によりけり
かゆいとこありまひぇんか、といひながら猫の頭を撫でてをりたり
中空(ちゆうくう)にあまたのびはは黄熟(わうじゆく)し法務省寮の閉ざされし庭
photographは「写真」にあらず端的に「時間の剥製」とだれか言ひけり
過ぎゆくと木槿(むくげ)は花の濡れてをりきのふの坂の道ののぼりに

家娘(いへむすめ)電話に出むとどどどどと階段くだる象かとおもふ
電柱にともるあかりに照らされてあすはひらかむあさがほつぼみ
芋の茎ことさらあかし颱風は南洋諸島をけふ発(た)ちしとふ
をさなごのこぶしのほどに育ちたる梨の木(こ)の実(み)のあをきゆふぐれ
芋の葉の凹面に日のあたりをり楕円焦点に赤とんぼひとつ

弥縫策にすぎぬこととは知りながら花を買ひきて妻としたしむ ※弥縫策=びほうさく
ぱらぱらっ、と棕櫚の葉をうつ音がして玄関先に雨(あめ)到来す
百円玉ひとつ十円玉ふたつ入れて取り出す「愛の紅茶」を
気のふれし母を眠らす夜(よ)はふけて鳥(とり)ほととぎす花ほととぎす
「コンソメスープのもと」ひとかけらこの夜(よる)に塩を欲してわれと猫と舐む

憂鬱な電話ひとつをかけ終へて風呂の蓋とればたちのぼる湯気
うつしみの吉野葛果は舌のうへくづるるきはに愛(かな)しみにほふ
サミュエル・バーバー「弦楽のためのアダージョ」七分の間(ま)の虹きえるまで
沈丁花なまなま薫るよるのみち他人の家の生け垣に沿ふ
レストラン華屋与兵衛にわれ来たりチキンカレーをたちまち食ふも

◇滴滴集
花いまだあるかなきかに目のさめて金木犀はけふよりにほふ
庭たづみのおもてに満ちて散れる花 金木犀は十日の後に
湾口のはるかに開(あ)けていましがたひかりの中に舟ひとつ出づ
いつしかも山茱萸(さんしゆゆ)の実もあかくなりひとつぶごとに霜ちかからむ
まゆみの実くれなゐふかく滴れば昨日よりけふ今日よりあした

道ばたに散りしつばきを老人がごみのふくろに掃きをさめゆく
ままごとのつづきのごとくちりとりに赤椿白椿掃きあつめをり
身をかがめ柘榴口(ざくろぐち)より入りぬれば五百羅漢がゆであがるところ
母と子と電車の窓にみてをれるひとつの景色さしかかる川
「菜の花が咲いてゐるわねェ」鉄橋をわたるときおほきな音したりむかし

ふてくされの表現としていま俺はキャットフード食つてるばりりばりり
ヒポクラテス、ヒポポータマス兄おとと水辺の草をならび食(は)むところ
ここのつの蕾をもちて芍薬は四月二十日の朝をうごかす
ラ・トゥールの絵にをさなごが持てる灯(ひ)は大いなる影を壁に投げたり
黄櫨(はぜ)の木の実よりつくりし?椈ともしいにしへびとの夜を恋ひわたる

人にいふことにあらねどなにげなし躑躅と髑髏かんじ似てゐる
わが友は偉くなくとももののはづみに「花を買ひきて妻としたしむ」をする
何気なしにの「なし」がなくなり何気になにげに爪を噛む人、臍(ほぞ)をかむ人
びはひとつ食ひまるい息ひとつ吐くそれも去年の母とおもへり
猫にだともの言ひやすくこもごもに猫にもの言ふ家の者たち

からすうり朱(しゆ)のいろひとつ吊るされて群馬甘楽(かんら)町夕映さむき
泥にちる柘榴の花のなつかしさ鈴木清順「けんかえれじい」
ここに仰ぐあふちは花のきよらかさそのさきの空虹をとどめて
芍薬の三年前の花おもふ三年まへのはなはうつくし

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