Quantcast
Channel: my photo diary
Viewing all articles
Browse latest Browse all 681

村上春樹『スプートニクの恋人』を読みました。(再)

$
0
0
イメージ 1

 今日、村上春樹の長編第9作『スプートニクの恋人』(99)を読み終えました。(再)
 この作品を読んだのは約10年ぶり、3回目でした。この作品について、洋泉社MOOK『村上春樹 全小説ガイドブック』(10)から引用します。
story
 「ぼく」は、2歳下で小説家志望のすみれに恋していた。だが、自分の気持ちを伝えることができずにいる。そんな中、すみれが22歳の春、17歳も年上の女性・ミュウが現れる。すみれは恋に落ち、ミュウ――すみれの言う「スプートニクの恋人」――との恋物語が始まる。すみれはミュウの下で働き始めたのだが……。

舞台
 年代は詳細には描かれてはいないが、ある年の春にすみれはミュウと出会う。7月に吉祥寺から代々木上原に引っ越した直後、ミュウとヨーロッパへ向かった。そして8月下旬、「すみれが消えた」というミュウからの連絡で、「ぼく」はギリシャの島へと向かう。だが行方はつかめないまま帰国。半年以上が過ぎたある晩、突如すみれから連絡が入ったところで、物語は終わりを告げる。(引用者注:すみれからの電話は夢だと思います。)
 物語の中心となるのは、主に3つのエリア。まず、ぼくが住む国立と中央線沿線(すみれが住んでいた吉祥寺、井の頭公園、新宿、立川)。次にミュウが行き来する赤坂・表参道界隈(赤坂、青山、神宮前、表参道、すみれが引っ越した代々木上原、広尾など)、そしてすみれとミュウが旅した南欧(イタリア、フランス、ギリシャ)。特にギリシャは、エーゲ海の小さな島ですみれが姿を消し、帰京途中の「ぼく」がアクロポリスの丘で寂寥感に襲われるなど、重要な舞台となっている。

【感想等】
◆「22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。・・・・・恋に落ちた相手はすみれより17歳年上で、結婚していた。さらにつけ加えるなら、女性だった。」という、かなり衝撃的な文章でこの作品は始まります。
 主な登場人物は「ぼく」と「すみれ」と「ミュウ」で、東京とギリシャが主な舞台です。「ぼく」は「すみれ」を愛していますが、「すみれ」は「ミュウ」に激しく恋しています。そして、「ミュウ」は14年前の出来事のために「すみれ」の気持ち(性欲)を受け入れることが出来ません。どこへも行き場のない物語は、「すみれ」の失踪というかたちで決着を迎えるしかなかったようです。

◆以下、僕の個人的な「村上春樹の長編小説ランキング」(2019.1.7現在)を示します。作品の良し悪しというより、僕の好き嫌いで順位は決まっています。今回、久しぶりに『スプートニクの恋人』を読んでみて、以前あったレズビアンへの偏見や「すみれ」の失踪を謎のまま放置したことへの不満はなく、結構おもしろく読めました。
1 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(85)
2 1Q84(09、10)
3 騎士団長殺し(17)
4 ダンス・ダンス・ダンス(88)
5 海辺のカフカ(02)

6 ねじまき鳥クロニクル(92-93、94、95)
7 羊をめぐる冒険(82)
8 ノルウェイの森(87)
9 国境の南、太陽の西(92)
10 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年(13)

11 風の歌を聴け(79)
11 1973年のピンボール(80)
11 スプートニクの恋人(99)
14 アフターダーク(04)

◆村上作品を読むと、いつも多くの示唆を与えられます。以下、読書リストに加えようと思います。
・ジャック・ケルアック『路上』(57)、『孤独な旅人』(60)
・ジョゼフ・コンラッドの『闇の奥』(1899)
・村上春樹『遠い太鼓』(90)
https://blogs.yahoo.co.jp/kazukazu560506i/46679604.html

◆主な登場人物(登場順)
・ぼく(K)
・すみれ
・ミュウ
・すみれの父
・フェルディナンド
・ガールフレンド
・にんじん(仁村晋一)
・中村警備主任

◆気になった文章
・我々の不完全な人生には、むだなことだっていくぶんは必要なのだ。もし不完全な人生からすべてのむだが消えてしまったら、それは不完全でさえなくなってしまう。(P8)

・「人はその人生のうちで一度は荒野の中に入り、健康的で、幾分は退屈でさえある孤絶を経験するべきだ。自分がまったくの己れ一人の身に依存していることを発見し、しかるのちに自らの真実の、隠されていた力を知るのだ」(P10)
 ~すみれが引用した、ジャック・ケルアックの小説『ロンサム・トラヴェラー』の一節です。前回(08)、この作品を読んだ時、ケルアックが気になって、作品中に登場した『オン・ザ・ロード(邦題:路上)』(57)と『ロンサム・トラヴェラー(邦題:孤独な旅人)』(60)を購入しましたが、積んだままです。今後の読書リストに加えようと思います。

・すみれはそれ以来ミュウのことを心の中で、「スプートニクの恋人」と呼ぶようになった。すみれはその言葉の響きを愛した。それは彼女にライカ犬を思い出させた。宇宙の闇を音もなく横切っている人工衛星。小さな窓からのぞいている犬の一対の艶やかな黒い瞳。その無辺の宇宙的孤独の中に、犬はいったいなにを見ていたのだろう?(P14)
 ~ジャック・ケルアックは、ビートニク(ビート・ジェネレーション)を代表する作家ですが、ミュウはビートニクを「スプートニク」と言い間違えます。この時、ミュウに恋してしまったすみれは、彼女を「スプートニクの恋人」と呼ぶようになります。

・「あまりにもすんなりとすべてを説明する理由なり論理なりには必ず落とし穴がある。それがぼくの経験則だ。誰かが言ったように、一冊の本で説明されることなら、説明されないほうがましだ。つまり僕が言いたいのは、あまり急いで結論に飛びつかないほうがいいということだよ」(P82)

・ぼくは教壇に立ち、小学生にむかって世界や生命や言葉についての基本的な事実を語り、教えていたわけだが、それは同時にまた子供たちの目や意識をとおして、ぼく自身にむかって世界や生命や言葉についての基本的な事実をあらためて語り、教えることでもあった。(P90)

・余計なことを考えたくなかったから、目覚めているあいだはいつも集中してコンラッドを読んでいた。
 ~ジョゼフ・コンラッドの『闇の奥』(1899)も積んだままになっているので、今後の読書リストに加えようと思います。

・あの男はわたしの部屋でいったい何をしているのだ? 彼女の額にはうっすらと汗が浮かんだ。どうやってわたしの部屋に入ることができたのだろう? ミュウにはわけがわからない。彼女は腹を立て、そして混乱する。それから一人の女が姿を見せる。女は白い半袖のブラウスと綿のブルーのショート・スカートをはいていた。女? ミュウは双眼鏡を握りしめ、目を凝らす。それはミュウ自身だった。(P234)
 「わたしはこちら側に残っている。でももう一人のわたしは、あるいは半分のわたしは、あちら側に移って行ってしまった。わたしの黒い髪と、わたしの性欲と生理と排卵と、そしておそらくは生きるための意志のようなものを持ったままね。そしてその残りの半分が、ここにいるわたしなの。わたしはずっとそう感じ続けてきた。スイスの小さな町の観覧車の中で、何らかの理由で、わたしという人間が決定的に二人に引き裂かれてしまったのよ。あるいはそれは何かの取り引きのようなものだったのかもしれないわね。でもね、何かが奪い去られたというのではないのよ。それはまだ向こう側にきちんと存在しているはずなの。わたしにはそれがわかる。わたしたちは一枚の鏡によって隔てられているだけのことなの。でもそのガラス一枚の隔たりを、わたしはどうしても越えることができない。永遠に」(P238-39)
 「そういう意味では、14年前にスイスでわたしの身に起こった出来事は、ある意味ではわたし自身がつくり出したことなのかもしれないわね。ときどきそう思うの」(P242)
 ~ミュウはスイスの小さな町の遊園地で、一晩観覧車の中に閉じこめられ、双眼鏡で自分の部屋の中にいるもう一人の自己の姿を見る。ドッペルゲンガーだ。そしてその体験はミュウという人間を破壊してしまう(あるいはその破壊性を顕在化する)。ミュウ自身の表現によれば、彼女は一枚の鏡を隔てて分割されてしまったわけだ。(P249)

・「ぼくにとってももちろんきつい。ずっとこんな風にうまくやっていけたらいいのにと思う。でもこれは正しいことじゃない」
 彼女は大きく息を吸って、吐いた。
「正しいことって、いったいどんなことなの? 教えてくれる? 正直なところ、なにが正しいことなのかわたしにはよくわからないのよ。正しくないのがどんなことか、それはわかるは。でも正しいことって何?」(P302)

◆作品中に登場する音楽/ミュージシャン一覧
♫ シューベルトのシンフォニー、バッハのカンタータ
♫ プッチーニ『ラ・ボエーム』
♫ モーツァルトの歌曲「すみれ」(歌:エリザベート・シュヴァルツコップフ、ピアノ:ヴァルター・ギーゼキング)
♫ ヴィルヘルム・バックハウス演奏のベートーヴェンのピアノ・ソナタ、ウラジミル・ホロヴィツ演奏のショパンのスケルツォ、フリードリヒ・グルダ演奏のドビュッシーの前奏曲集、ギーゼキング演奏のグリーク、スヴィアトスラフ・リヒテル演奏のプロコフィエフ、ワンダ・ランドフスカ演奏のモーツァルトのピアノ・ソナタ
♫ アストラッド・ジルベルトの古いボサノヴァ・ソング

♫ シューマン、メンデルスゾーン、プーランク、ラヴェル、バルトーク、プロコフィエフ
♫ 「マック・ザ・ナイフ」の入っていない『ベスト・オブ・ボビー・ダーリン』
♫ マルタ・アルゲリッチ演奏のリストのピアノ・コンチェルト1番
♫ ヴィヴァルディ
♫ テン・イヤーズ・アフター

♫ ヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニューズ
♫ ラジオから流れるギリシャ音楽
♫ ジュリアス・カッチェン演奏のブラームスのバラード
♫ バッハの小曲
♫ モーツァルトのハ短調のソナタ

♫ 『ワルトシュタイン』(=ベートーヴェンのピアノ・ソナタ21番)、『クライスレリアーナ』(シューマン作曲のピアノ曲集)
♫ モーツァルトの歌曲集(歌:エリザベート・シュヴァルツコップフ、ピアノ:ヴァルター・ギーゼキング)
♫ 山の上から聞こえてくるギリシャ音楽
♫ ベン・ウェブスターのテナートーン
♫ バッハ『フーガの技法』

◆作品中に登場する車一覧
●12気筒の濃紺のジャガー
●真っ黒なストレッチ・リムジン
●ボルボ・ワゴン
●赤いトヨタ・セリカ
●トヨタ・ハイエース

●ブルーのアルファロメオ
●フェラーリ
●中型のトラック
●古いプジョーのセダン
●シトロエン


Viewing all articles
Browse latest Browse all 681

Trending Articles